青の名前

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天川栄人のブログです。新刊お知らせや雑記など。

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小説を書こう、みんなで。

※以前noteに掲載したものに加筆修正し、再掲しました。理由は最後に。

共作の楽しみ

 私、これでいて高校時代は熱血部活人間だったのです。
 で、部活で何をやっていたかというと、書いていたのです。いわゆる文芸部員です(兼部で科学部にも入ってて、天体観測とかしてました!)。

 文芸部(母校では文學部という名前でしたが)って何をする部活なの、とよく聞かれるのですが、放課後部室に集まってダラダラ、もとい、みんなで書いていました。

「みんなで」ってところが重要で、個々が個々の作品をひとりで書くのはもちろんなんだけど、複数人での共作も、盛んに行っていたのです。

 文芸部員各位にはおなじみかもしれないのですが、楽しくて勉強になるので、備忘録がてら、普段の部活やワークショップでやった共作活動をまとめてみました。

 モノ書き仲間を2、3人集めて、レッツトライ。

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(難易度★)お題/テーマ小説

 お題やテーマから想像を膨らませ、それぞれ自由に創作します。
 テーマは言葉でもいいし、ジャンルでもいい。色でもいいし、歌でもいい。1枚の写真から物語をつくる、なんてのもいい。
 俳句だと吟行っていって、外を歩きながらその場の題材で詠んだりもしますが、そういうのもいいかもしれませんね。文芸部に合宿ってあるのかしら(母校にはなかった)。楽しそう。

 簡単すぎるなら、条件を増やしてみましょう。
 三題噺とは落語の用語ですが、お題も3つほどになるとなかなかタフです。制限が多いほどうまく作れるタイプの作者もいたりするんですけど。

 他にも、舞台を縛る。時間・時代を縛る。冒頭1行、ラスト1行を縛る。このセリフを必ず入れる、などなど。逆にこれは入れちゃダメ、みたいなのもありかも。遊び方は無限大です。

 もちろん、条件を満たせばそれでいいというわけではなく、条件を満たし、かつ、小説として面白いのが理想です。制限の中でいかに自分らしく表現するかは腕の見せ所。同じテーマで創作していても、作者によって必ず個性が出るので、他の人の作品を読み比べるのも楽しいものです。

 ちなみに私が最近参加したこちらの同人誌では、「YA小説」「おとぎ話のリライト」「舞台は岡山」「時期は冬」「きびだんごを出す」「イルミネーションを出す」(+できれば他の方の作品とからめる)という条件で短編を書きました。後述のシェアードワールド小説とも言えますね。よければ読んでみてください。

 

(難易度★★)リレー小説

 少し書いたら次の人へ、また少し書いて次の人へ……という具合に、みんなで順繰りにひとつのお話を作っていく小説。経験者も多いのでは?

 リレー小説で一番難しいのは、終わらせることです。ダラダラ続けてると、収拾がつかなくなる恐れがある。必ず何回で終わらせる、など決まりを作りましょう。

 暗い話ばっかり書く人とコメディしか書かない人なんかを同じチームに入れると、話が暴走して大変なことになります。行き当たりばったりに任せてもいいのですが、やはり書く以上は、小説として一応の完成度を目指したいもの。方向性や落としどころをあらかじめ共有しておくと、話が脱線せずに済みます。ラストの1行とかを縛っておくといいかもしれません。

 もう一度言いますが、リレー小説で一番難しいのは終わらせることです。未完のリレー小説を押し入れの中で何年も眠らせたままの天川、お前に言っているんだ。

 

(難易度★★)リレー小説②即興バージョン

 もう少しタフな訓練をお望みなら、仲間を4人集めましょう。制限時間1時間で、短編リレー小説を即興で4本書き上げます。

1・原稿用紙を用意し、4人それぞれに配る。

2・最初の15分で、各自、起承転結の「起」の部分を書く。書き起こしは悩みがちなので、最初の1行だけあらかじめ指定しておくと楽です。15分過ぎると強制終了。時間内に、なにがなんでもお話を立ち上げます。

3・それぞれ右隣の人に原稿を渡す。すると、左隣の人が「起」を書いた原稿が回ってくるはずなので、次の15分ではその続きに「承」の部分を書く。

4・同じ要領で、続く15分では、一番目の人が「起」二番目の人が「承」を書いた原稿が回ってくるはずなので、その続きに「転」の部分を書く。回を追うごとに読まなければならない部分が増えるので、少しインターバルを設けてもいいかもしれません。しかし制限時間にはシビアに。とにかく即興で続きを書きます。「結」を見据え、なにがしかの事件を起こしたいところ。

5・時間になったら原稿を回し、最後の15分で「結」。ここでは未完は禁止です。他の3人が「転」までつないだ原稿を、なんとかして落とします。これで、同時に4本のリレー小説が完成したことになります。

 各パート、必ず制限時間内に書き終えること。おのずと書ける量は限られます。物語をうまく進行させるには、どのパートでどういうことを書かなければならないのか、いやというほど体感できるはずです。もちろん難しければ制限時間を伸ばしてもOK。

 これ、最初はかなり難しいです。まともな小説になると感動します。何度か繰り返すと、起承転結のリズムが体に染みつきます。このリズムが合わないなと感じる人は、「序破急」「三幕構成」などを学ぶといいでしょう。

 

(難易度★★)シェアードワールド小説

 世界観や登場人物を共有して創作する。スター・ウォーズやマーベルの世界観を想像すると分かりやすいかと。もちろんそんなに壮大なものではなくとも、同じクラスが舞台の話で、共通の登場人物が登場する、なんてだけでも、立派なシェアードワールドです。

 ただ、本当に「世界を共有」しようと思うなら、その舞台がどういう歴史をたどってきたのか、どこに何があって、どういう人間がどういう暮らしをしているのか、など、すり合わせるべき事項は思いのほかたくさんあります。書き始めてからも、お互い何度も確認が必要かもしれません。

 ある一つの駅を舞台にした小説群を、みんなで書いたことがあります。メンバーは5、6人くらいだったかな。駅が建てられてから、町がにぎやかになり、やがてさびれ、廃線になり、駅舎が廃墟になるまで、を、それぞれ時代をずらして書きました。

 ところが、事前にしっかり駅の立地や特徴などを話し合わなかったせいで、「同じ駅」感が全然出ず、ただの駅小説の集合になってしまったような。それはそれで楽しかったですが。

 

(難易度★★★)モザイク小説

 ある事件を、それぞれ別の視点から描く。ひとつひとつはバラバラの欠片だが、すべてを読むことでモザイク画のように大きな一つの物語が見えてくるような小説群。

 やってみたかったけど、ついに叶わなかった。本気でやろうと思ったら、相当の打ち合わせが必要でしょう。でも楽しそう……やってみたい……。

 

だいじなこと

 いろいろご紹介しましたが、全てに共通する重要なことは、以下の点。

1・必ず〆切を設定すること。書ききらないと意味がありません。

2・必要なら枚数制限を課すこと。書ききらないと意味がありません。

3・書きあげたら、自他ともに作品をしっかり読み合うこと。みんなで読んで初めて楽しい活動です。

 他にも色々あると思いますよ。架空のキャラになりきって手紙を送り合う往復書簡とか、誰が書いたかわからないように書き、作者を当て合う覆面小説(作者人狼)とかね。

 とにかく、「みんなで書くのは楽しい!」のです。

 

以下よもやま

 考えてみれば、お話を作ることって、小さなころは当たり前に共同作業なんですよね。たとえば、おままごとや、お人形遊びって、その場のみんなでひとつの物語を作っていることと同じじゃないですか。それぞれ異なった発想が自由に入り混じり、約束事ができ、それを裏切るような展開が生まれ、そうして物語が育っていく。物語は生き物です。

嵐が丘』や『ジェーン・エア』で知られるブロンテ姉妹が、小さなころ、アングリアやゴンダルという名の独自のファンタジー世界を構築していたことは有名ですが、きょうだいで一緒に作った世界で、「みんなで」物語を紡ぐ気持ち、分かる気がするのです。物語を誰かと共有すること、ともに世界を作り上げていくことは、本当に幸せで豊かな営みだと思う。

 というのはまあ余談だけれど、モノ書き仲間がたくさんいるなら、一緒に遊ばない手はないですよね。最近はめっきり機会が減りましたが、また誰かと共作したいなあ、と思う日々です。

 

 ***

 

 という記事を以前noteに書いたのですが、noteは閉じちゃいましたので、こちらのブログに再掲しました。

 というのも、私はここ数年、高校生文芸道場おかやまという、文芸部の岡山県大会のお手伝いをしています。ところが、事務局の先生曰く、この数年で、県内の高校の文芸部人口が激減し、部の存続さえ危うい学校もあるらしいのです。

 もちろん、単に生徒数の減少ということもあるでしょう。でも、コロナのせいで、部活動ができない。大会やイベントが中止になる。そんなことがもう2年も続いています。モチベーションが下がるのも当然だと思います。

 別に家でひとりで書けばいい? 投稿サイトだってあるわけだし? まあそうかも。でも、部活動でしか得られない感動や気づきって、絶対あるんですよ。上記の共作の楽しみが、まさにそれです。

 他にも、みんなで部誌をつくったり、読書会や歌会・句会を開催したり、ゲストをお招きして話を聞いたり……。ひとりじゃできないことが、いっぱいあるんです! 後輩たちがそういう機会を失って、意欲をなくしているとしたら、私はめちゃくちゃ、めちゃくちゃ悲しいです。

 一番つらいのは学生さんたち本人だから、外からわぁわぁ言ったって仕方ないのだけど、どうかどうか、書くのをやめないでほしいです。「みんなで書く」楽しさを忘れないでほしいです。

 私も高校文芸出身の者として、何かできることを探します。ワークショップやりたいやりたいと言ってもう数年たっちゃってるんで、来年こそ、何とか。