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天川栄人のブログです。新刊お知らせや雑記など。

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【私信】高校生文芸道場おかやま2021散文部門アンケートにご質問をくださった方へ

お手紙を書く女性のイラスト【線画+塗り】

長い前置き

 私は数年前から、高校生の文芸部の岡山県大会「高校生文芸道場おかやま」の散文部門の講師をしています。

 しかし、コロナの影響で、私が担当になってからは一度も現地参集でのワークショップや交流が行えず、応募作品の審査結果と講評をお送りするだけという、なんだか味気ない感じになってしまっています。

 せめてもう少し生徒さんの声が聞きたいと思い、2021年度は講評にGoogleFormでアンケートをつけてみました(大会の感想や要望、コロナ禍における部活動の実際などを匿名で回答してもらっています)。

 今のところ回収率が低めで、分析らしい分析ができるほどのデータは集まっておりませんが、忘れたころにぽろりぽろりと回答が届いています。ありがとうございます。

 で、そのアンケートの最後に「質問、意見、感想、困っていること、聞いてほしいこと、なんでもどうぞ」なる自由記述欄を設けました。ところが私アホなので、回答者は匿名だということをすっかり忘れておりました。回答者のアドレスとかも書いてもらっていないので、せっかくご質問いただいても返信のしようがありません!(みなさま、アンケートを取るときは気をつけましょう)

 というわけで苦肉の策で、この場をお借りして回答させてください。ご本人がお嫌だったらすぐに取り下げますので、ご連絡くださいね。どうか本人に届きますように*1

(なお私の高校文芸への想いはこちらの記事でわりとしつこめに語っております)

eight-tenkawa.hatenablog.com

質問と回答

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 ご質問ありがとうございます。

 お気持ちすっごくわかります。自分の世界を表現する手段って、小説だけではなく、詩や短歌や俳句、漫画や演劇、アニメに映画、絵画、工作、音楽、ダンス……山ほどありますものね。でもその中で小説を選んだからには、「文章」にこだわりたい。頭の中で考えていることを文章でうまく表現できるようになりたい。そう思って、頑張って取り組んでらっしゃるのですね。それが伝わるだけでも、もう十分文章は上手だと思いますが……。

 まず、小説は、執筆の速さを競うゲームではありません。遅くても全く問題ないですよ! 苦手でもじっくり取り組む姿勢は素晴らしいです。誰にでもできることではないですよ。あなたの特性を嫌いにならないで、どうぞ大切にしてください。

 その上で何かアドバイスできるとすれば、月並みな表現になりますが、「たくさん読んで、たくさん書く」ことしかないと思います。

 たとえば画家が、画材や色を使い分けるように、小説家はことばや表現を使い分けます。単に語彙という意味ではなく、そう、「文章自体の長さとか、重さとか、色とか、見た目とか」のことです。同じ内容でも、選ぶことばや表現によって、伝わり方は確実に変わります。

 ならば、ことばや表現のストックは、たくさん持っていた方が楽に戦えます。

 もちろん、1本の筆と墨だけでも豊かな表現ができるスーパー画家はたしかにいるのでしょう。でも、絵画初心者は、まずは3本くらいの筆と、12色なり24色なりの絵具セットを買うんじゃないかな。だってその方が簡単だから。そうやって、いろんな画材や色を使って勉強していくうちに、筆の扱い方や色の調合を覚え、少しずつ自分なりの表現を掴んでいくのだと思います。小説も同じことです。

 でも小説の場合難しいのは、ことばってインスタントには手に入らないってところです。ことばのパレットってどこにも売っていないし、辞書をポンと渡されてすぐにインストールできるようなものでもない。

 だから、たくさん読んで、たくさん書くしかありません。他の人がどんなことばを使ってどんな表現をしているかを学び、自分でもいろいろと試行錯誤してみる。今日はこんな文章を書いてみよう、今日はこんな風に……と、繰り返し実験してみると、たくさんのことが身につくと思います。とにかく勉強、勉強であります。

 そしてこの勉強は、書き続ける限り一生続きます。作家になった今も、日々学ぶことばかりです。特に商業になると、ジャンルや読者の年齢に合わせて、文章を柔軟に変えなければなりません。つまり「自分が望んだ文章の形にすること」が、必ずしも正解ってわけでもないんですよ。小説は、読者に伝わらなければ意味がありませんから。「自分が望んだ文章の形では、そもそも伝わらないかもしれない」と常に自問しながら、制限のある中で少しでもいい表現を探してもがく。小説ってそういう芸術なのです。

 で、そういう試行錯誤を「おもろいやんけ~!」って思える人は、ほっといても勝手に作家になりますから、まあほっとくんですけど、それがしんどいなって思うなら、別に小説じゃなくたっていいんですよ。

 最初に言ったとおり、表現手段って小説以外にも無数にあります。「ストーリーや話の構成を考えることは難なくできる」ってサラッと書いてあるけど、それってすごい才能です。たとえば、絵の描ける子と組んで、漫画を描いてみたら? セリフなら書けるってことなら、劇の脚本を書いたり、チャットノベルに挑戦してみるのもいい。ゲームのシナリオとかもいいかも。小説にこだわりたいなら、文章は誰かに任せて、チームで小説を作るって手もありますよ。それって全然ズルじゃないからね。

 私が一番伝えたいのは、楽しくやれる方法を探して、長く続けてくださいってことです。執筆がしんどいなら、無理に好きになる必要はないよ。なにごとも「やりたいからやる」が一番です。

 で、ここまで読んで、「ようわからんかったけど……、まあ、書いてみるか!」って思うなら、たぶんあなたはもう執筆が好きなのだと思います。応援しています。

おわりに

 長くなってしまった。前々から言ってますが私は中高生の創作支援がしたいのです。今のところ熱意だけが空回っておりますが。

 文芸部向けの、「作家になるため」じゃなくて「みんなで楽しく書くため」のあんちょこ(死語)的な本があればいいのになあ。運動部でいう「基礎練」みたいなのを集めたやつ。何なら私書きたいですけど。ご興味ある版元様、お声かけください。

 今年こそワークショップやるぞ! 色々考えてます。コロナに負けず、一緒に頑張りましょう。

 

 7月に岡山を舞台にしたYA小説が出ます↓ 詳しくはおいおい。

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784065284735

*1:ご本人から返信がありました! このまま掲載しておいてくださいとのことでしたので、残しておきます。