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天川栄人のブログです。新刊お知らせや雑記など。

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30代児童書作家、初めてドラえもん映画を観る

 クレヨンしんちゃんを見せてもらえない家庭で育ったせいで*1、時間枠が隣だったドラえもんもあんまり見ないまま大人になりました。毎年公開されるドラえもん映画も1本も観たことがなかった。

 しかし曲がりなりにも児童書作家、ドラえもんのこと知らないのはさすがにそろそろあかんかなと軽い気持ちでこんなことを呟いてみたところ、

天川栄人 on Twitter: "@有識者の方 ドラえもん映画、最低でもこれは観とけ的なオススメありますか? 新旧問わず。リプかwaveboxで教えてください🙏 https://t.co/Zh0ebubsgF" / Twitter

 フォロワーの児童書作家さんたちから、ちょっとびっくりするくらいの量の反応が返ってきました。どうやらドラえもん、児童書作家の必修科目だったみたいです。どうしよう、このままだと進級できない。

 というわけで、いい機会だから年代順に全部観ていこうと思います。頑張るぞい。

 ※みんな観てる前提で書いているのでネタバレ配慮なしです。ご自衛ください。

【80年代】

『映画ドラえもん のび太の恐竜』(1980年)

 久しぶりに大山ドラえもんの声を聞いたのですが、細かい声のお芝居がすごく面白かった。セリフ回しも小粋で人間くさく、何とも言えず魅力的ですね。
 ストーリーはザ・大冒険って感じで面白かった。弱きものを守ろうとするとき、のび太君の心根の優しさが際立つなあ。ていうか正直ドラえもんがいればたいていのピンチは乗り越えられるだろと思っていたのですが、ひみつ道具にもそれぞれ弱点があって万能じゃないんですね(私のドラえもん知識はこのレベルです)。

『映画ドラえもん のび太の宇宙開拓史』(1981年)

 いや面白すぎるやろ。
 ワープ航法とか超空間とか時間の流れが違うとか、難しく考えようとしたらいくらでも難しくなるところを「そういうものなんです!」っていったん飲み込ませる腕力、勉強になるな。地球では弱いのび太君が、低重力環境下では強くなるという仕掛けも面白かった(でも欲を言えば弱いままでも肯定されてほしい)。
 あと、わりとしっかり銃撃戦するのびっくりした。ショックガンとはいえ脳天ぶち抜くのアリなんですね。なんにせよチャミーが可愛すぎました。面白かった。

『映画ドラえもん のび太の大魔境』(1982年)

 出木杉君が出てきた。一緒に冒険には行かないんだね。
 ジャイアンの葛藤が丁寧に描かれるのが新鮮でした。ペコが後半ジャイアンと仲良くなっていくのがよかったな。いきなり喋り出したときは正直ちょっと怖かったけど。
 先取約束機、わりと強力な縛りがあって扱いが難しそうなんですが、約束守れなかったらどうなるんでしょう。頭がこんがらがりそうだから考えるのやめとこ。

『映画ドラえもん のび太の海底鬼岩城』(1983年)

 いや面白すぎるやろ!!!
 バギーちゃんのキャラだけでもう優勝では? いけすかないけど人間味があって、だんだん好きになっちゃう。ラストは涙;;
 深海の描写や海底国家の成り立ちも面白くて、科学的事実とフィクションの両面から知的好奇心が刺激されました。子どもの科学と月刊ムーを一緒に読んでるような。
 それにしてもテキオー灯の効果が切れるくだり、リアルに怖かったですよね。子ども泣かないのかな。バギーちゃんの冷徹なセリフも相まってかなりゾッとしました。これが旧ドラの怖さってやつか~。

『映画ドラえもん のび太の魔界大冒険』(1984年)

 ドラミちゃんが出てきた。可愛いね。
 他の作品でも思ったけど、たいていのものは「がらくた」「いたずら」で済ますのび太のママパパの豪胆さがすごい。家に急に石像が現れたら普通ビビりませんか? 未来のロボットと暮らしてると胆力が鍛えられるんだろうな。
 魔法とかいいつつやっぱり根っこはSFだなと思った。ただ今作はちょっとしずかちゃんへのセクハラがひどすぎて見てられなかったですね。

『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争』(1985年)

 洋画好きの私ニッコニコ。しずかちゃんかっこよかったですね。
 それにしてものび太君の煽られ耐性のなさ、なんとかならないんですか? 毎回スネ夫ジャイアンにケンカ売られて軽率に約束して後悔してるやん。もしかしてこれずっと続くんですか? そういうパターンなんですか? のび太君ちょっとそこに座りなさい。お姉さんから少し話がある。
 今回は敵がすごく強くて、さすがに負けるかもって思いました(あらゆる作戦が敵に読まれている)。自由同盟、のんきに歌ってる場合か!!

『映画ドラえもん のび太の鉄人兵団』(1986年)

 人気あるのわかるな。まず設定がおもろすぎるもん。巨大なロボットの部品が空から降ってくるとか、いったい何をどうやったら思いつくんですか? 優勝。
 ミクロス可愛いし、リルルさんはつらい。ラストちらって映るの小憎いですね……!
 しかしのび太君さあ……また売り言葉に買い言葉で無意味に張り合ってるの? もうスネ夫ジャイアンと付き合うのやめときなさい。お互い良いことにならないから。あとリルルと初めて会ったときの言動、ザ・昭和のオヤジって感じでサイテーだったぞ。

『映画ドラえもん のび太と竜の騎士』(1987年)

 竜っていうからドラゴンかと思ったら恐竜でした。スネ夫がノイローゼになっちゃうの可哀想だったけど、これを機にちょっと謙虚になってみてもいいんじゃないでしょうか。
 だんだんわかってきたけど、ドラえもんはあくまでもファンタジーじゃなくてSFなんだな。真相がわかったときのカタルシスは80年代イチだったかも。

『映画ドラえもん のび太のパラレル西遊記』(1988年)

 ママが怖い。えっこわ……えっ! 怖い!!!
 あの異様な食事シーンからの階段を上がってくるカット、ママの声が怖すぎる。別に怖いこと言ってないのにそこはかとなく恐怖を感じる。顔が写らないのも怖い。こ、怖いよ!
 西遊記お約束ネタが満載でめちゃくちゃ面白かったんですけど、紅孩児がつらすぎて……だってパパもママも悪いことするようにプログラムされてるんだもん仕方ないじゃん;;目の前で父母が……本当に……つらい……三蔵さんと幸せになりや……。

『映画ドラえもん のび太の日本誕生』(1989年)

 なんかこれ観たことあるかも。畑のレストランめっちゃ記憶にある!!! 大根割ったらカツ丼、謎に美味しそうですよね。こんなグッズもあるらしい↓

おうちで「畑のレストラン」を♪ |fujiko-museum.com

 タイムパトロールがかっこよかった。動物遺伝子アンプル、生命倫理的にギリギリ(アウト)だと思うのですが丸く収まってよかったね。
 しかしたかだか10年でアニメの進化がすごい! 恐竜のときと比べるとめっちゃぬるぬる動く。これでまだ自分が生まれる前の作品なんですよ。今後に期待しかないです!

80年代感想

 心躍る冒険、スケールの大きなSF展開、未知の生き物や文明との遭遇……やっぱり子ども向けの物語にはこういうワクワク感が必要ですよね。しかもそれがあくまで日常と地続きなのがいいなあ。もしかしたら僕だって? と想像させる余地というか。「畳の裏から宇宙船」なんてその極みですね。
 最初のころは敵が100%悪だったけど、鉄人兵団あたりから敵側にもちょっと複雑なキャラクターが登場するのも面白かった。
 ただ、固定化されたジェンダー観(特にしずかちゃんの扱い)や好戦的な姿勢(すぐ暴力で解決しようとする)はまあ時代だな~~~って感じですね。これがこの先どう変わっていくのか期待です。

【90年代】

『映画ドラえもん のび太のアニマル惑星』(1990年)

 猫耳ドラちゃんかわいい。
 環境問題へのメッセージ性がものすごく強かった。30年経っても同じ状況でごめん。人間は愚かだ。
 アニマル星は超理想的なエコフレンドリー科学国みたいだけど、その平和主義の根幹を「信仰心」で説明されるとそこはかとなく嫌な予感がするんだよな。頼むからニムゲたちのこと見捨てないでくれよ。人間は君たちが思ってるより愚かなんだよ。

『映画ドラえもん のび太ドラビアンナイト』(1991年)

 アラビアンドラちゃんかわいい。
 オープニング映像がCGになった。ファミコン感あってキュート。
 ストーリーは前作と比べるとドタバタのんきな感じだった。ドラえもん素人としては、ドラえもんのポケットって取れるんだ!?って驚きでした。

『映画ドラえもん のび太と雲の王国』(1992年)

 これとても重要な作品だと思う。すごく重い。
 まずドラえもんって壊れるんやね。あと知らん人いっぱい出てきてポカーンだった。ただ私はプリキュアの民なので、テレビアニメとのリンクは大好物だし、映画版の一見さん置き去り感には寛容です。映画版はあくまで本編ありきなので。
 で本題なんですけど、ドラえもんの頭突き特攻、ものすごく怖くなかったですか? 笑えないですよマジで。「使わないけど脅しとして」「抑止力としての絶大な戦力を持つ」ということ、そしてそれがどんな結果になったのか、きわめて重い問いかけがなされているのではないでしょうか。

『映画ドラえもん のび太とブリキの迷宮』(1993年)

 道具に頼ってばかりじゃダメだって、ようやくのび太君が気づいてくれた;;
 ここまで長かった。成長したねのび太君……。これからは「何か出してよドラえもん!」ってセリフ聞かなくていいんだね。約束したからね。
 いやしかし迷宮おもしろ〜〜〜。ストーリーはわりと単純だったけど、前作が重かったので、気楽に楽しめました。ラストのいとまきのうたも絶妙にトンチキでよかった。

『映画ドラえもん のび太と夢幻三剣士』(1994年)

 えっ……? え? え?『インセプション』ってこと???
 トラウマ映画との前評判を聞いていたので構えて観てたんですけど、キャラの造形が怖かったり(トリホーの顔がめっちゃ怖い)途中でのび太君やしずかちゃんが死んだりするから「ああこういうことね」っていったん安心しちゃったんです。
 そしたらラストこれちょっと……公開時のお客さん、どんな気持ちで映画館出たんですか? どう解釈すればいいの? ちょっとみんなで話し合おう。五時間目は学級会です。
 ていうかラストの衝撃で忘れかけてたけど、のび太君、道具に頼らないって言うたやんか!!! めちゃめちゃ頼ってたぞ。前作の涙返してくれや!!!

『映画ドラえもん のび太の創生日記』(1995年)

 神様のパズルだ!!!*2

www.kinokuniya.co.jp 世界そのものが主人公で、のび太君たちは終始傍観者という面白い作りのお話でした。虫が苦手な子は少々きついかもね。

『映画ドラえもん のび太と銀河超特急』(1996年)

 「銀河」と銘打つわりにはめちゃめちゃ地球民のエンタメだったけど、面白いもの全部盛りだった。
 ベアリングロードを全都市に実装してほしい。どういう物理なのかは一切不明だが便利すぎる。
 あとなんかBGMにクラシック音楽が多かったのも謎にスケール大きくて良かった。

『映画ドラえもん のび太のねじまき都市冒険記』(1997年)

 めっちゃ面白かった。
 敵対する勢力同士が心ならずも協力する展開が大好物なので、鬼五郎と一緒に戦うくだりワクワクしちゃった。鬼五郎のキャラ、いいよね。ホクロさんは鬼五郎という人間の良心を抽出したキャラクターなんでしょうね。
「種まく者」もよかったな。神とか創造神話をあくまで科学的な言葉で説明しようとするのが、いかにもドラえもんって感じで。
 後で調べたら、これ藤子先生の遺作なんですって。そう思うと、「あとは君たちに任せる」っていうセリフが響きますね。

『映画ドラえもん のび太の南海大冒険』(1998年)

 イケおじパラダイスだった。
 舞台は17世紀なんだから本来時代ものになるべきところ、そこに時間犯罪者や合成生物を投入してSFにしちゃうところが、さすがドラえもんだなあ。
 そしてベティがかっこいい。ジャイアンがモテるの珍しくないですか? ジャイアンとベティの絡み、すごい可愛かったよ……。
 全体的にコミカルな印象で、おしり印のきびだんごとか、夢たしかめ機のくだりとか、ゲラゲラ笑っちゃった。

『映画ドラえもん のび太の宇宙漂流記』(1999年)

 これこれ、こういうのだよ〜〜〜!!!
 銀河漂流船団とか宇宙少年騎士団とか、なんかもうロマンのかたまりだ。宇宙船のデザインかっこよかったし、ストーリーも超面白かった。
 ノストラダムスの大予言! アンゴルモア! 世紀末ですね……!
 のび太君のためを思うと道具に頼って欲しくないけど、のび太君がうまいことひみつ道具を活用すると「いいぞいいぞ!」って思ってしまう自分もいるな。我々視聴者の期待が、のび太君の成長を妨げているのかもしれない……うう……ごめんよのび太君……。

90年代感想

 明らかにメッセージ性が強くなりましたね。特に環境破壊や過剰な開発への警鐘といったテーマが目立ったように思う。単に冒険するだけでなく、異世界との出会いを通して人間という生き物の営みに考えを致すようなお話が多くなった。いいですね。
 あと、ひみつ道具の万能感でマンネリになるのを避けるためか、(四次元ポケットが盗まれる、ドラえもん自体が壊れるなど)ひみつ道具の使用を禁じるストーリー立てが多かった気がします。こういうバリエーションは長大シリーズの面白さだな。
 それにしても、しずかちゃんのお風呂シーンそろそろなくならないかなあ……地味にストレスなんだよな……。21世紀に期待です。

ゼロ年代

『映画ドラえもん のび太太陽王伝説』(2000年)

 んんんっ好き!!!
 まずオープニング可愛い。南海大冒険のオープニングが吉川ひなの歌唱だったとき本気でビビったんだけど、今度はまさかのウィーン合唱団で、それを上回る驚きだった。
 そしてストーリーがとにかく面白かった。みんな大好き「入れ替わり」のお話、こんなんなんぼあってもいいですからね。のび太君と同じ顔なのに緒方恵美ボイスだとこんなにかっこいいのズルだよね。ティオ、めちゃくちゃいいキャラでしたね。

『映画ドラえもん のび太と翼の勇者たち』(2001年)

 オープニング可愛い(2回目)。
 イカロスレースのシーンは非常に強いジブリ色(というか宮崎駿色)を感じました。飛行機の造形とかレースのカット割りとか。
 ペンギンは飛べないとかアホウドリは助走が必要とか、鳥ならではのベタなネタも多くて面白かったな。

『映画ドラえもん のび太とロボット王国』(2002年)

 オープニング可愛い(3回目)。
 安心感~。ストーリーも絵柄も、オーソドックスでおなじみの感じ。
 厳密には、旧ドラの終わりはこの作品だったのかもしれないですね。

『映画ドラえもん のび太とふしぎ風使い』(2003年)

 いや絵柄変えるなら先に言っといてくれや。
 作画監督が変わるだけでこんな変わります? 旧ドラの直線的で無機質な絵柄に慣れてたから、急になんかこう……あだっぽいというか、肉感的というか、感情表現もディズニー風に誇張して描かれるようになって、目とかもうキラキラだし……おばちゃんびっくりしちゃったよ……慣れるまで時間かかるよこれは……。*3
 ストーリーもかなりラディカルなシフトチェンジを感じました。ジャイアンの「暴力に飽きた」ってセリフ、衝撃でしょ。明らかに潮目変わったぞ。ここが時代の転換点です。
 そしてフー子との別れの湿っぽいこと。明白に泣かせに来てますよね。これまでのドラえもんって、こういうのじゃなかったじゃん。あくまでも胸躍る冒険活劇で、感動モノとはちゃうかったやん。くそー私は泣かないからな(流れ出る涙をぬぐいながら)。

『映画ドラえもん のび太のワンニャン時空伝』(2004年)

 猫派への宣戦布告だな。なんでヒーローが全員犬で敵が全員猫やねん。許せないですねこれは。
 アクションシーンや隕石の描写は迫力あったけど、前作同様泣きのシーンが長い。やっぱり泣かせに来てるなってちょっと冷静になっちゃう自分がいました。まあイチが犬じゃなくて猫だったら間違いなく号泣してたでしょうけど……。
 旧ドラ声優陣とはここでお別れ。大山ドラえもんの性や年齢を超越した唯一無二のお声、キュートかつ超然とした魅力は、きっと一生忘れることはないでしょう。
 しかし絵柄……うう……(まだ引きずってる)。

映画版公開なし(2005年)

 2005年は映画がないので、映画には関係ないけどドラえもんミリしら人(びと)のつぶやき聞いて↓

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 あの……私気づいちゃったんですけど……もしかして、その……、ドラえもんっていつか未来に帰っちゃったりします? まっとうな人間になろうとするのび太君の努力は、ドラえもんとの別れを意味したりします? いや、私、ドラえもんのび太君の教育のためにやって来たということは知ってるんですけど……のび太君といつまで一緒にいてくれるつもりなのかは知らなくて……え、だってドラえもんが22世紀に帰っちゃったら、きっと二度と会えませんよね? 世代的に、生きてるうちには巡り合えませんよね? 視聴者はみんな、それを前提として飲み込んでるんですか?
 
え、待って。じゃあ、毎回のドタバタ劇は、もしかして常に別れの予感をはらんでいるんですか? だって、のび太君の成長はすなわち彼がやがてドラえもんを必要としなくなるということで、ドラえもんには帰るべき場所があるということで、それはのび太君の隣「ではない」ということで……えっどうしよう耐えられないよそんなの。こちとらもう20年分の二人の「「「絆」」」を見せつけられてるんだよ。いつか来る空白なんか想像したくないよ。切なさのフライングでメタメタになっちゃうよ。
 私なんかこの事実に気づいたとき、これまで可愛い曲やな~としか思わなかった星野源さんの「ドラえもん」聴いて泣いちゃったからね。*4みなさん一体どんな情緒で見てるのマジで……。
 夫に話したら「え、いや帰らないよ笑 サザエさんシステムだから。のび太君たち年も取らないでしょ」と言われた。そういうことじゃないんだよ。

『映画ドラえもん のび太の恐竜2006』(2006年)

 最高傑作です。まだあと16本あるけど断言しちゃうわ。最高傑作です。
 声優もキャラデザも劇的に変わったのに、そこまで違和感を覚えなかったのは、一つには既に私が新ドラ声優になじんでいることと、もう一つには……んあああぁ~! 旧ドラのラストから絵柄を変えたのは、新ドラへの移行期間だったってことですね!! 風使いとかワンニャンと同じ作画監督さんですもんね。だから平気なんだ。くそっ完全に踊らされている。
 思えばこの20年で日本アニメは進化に進化を重ねていたわけで……ドラマティックで躍動感あるタッチと柔らかい光の表現を目にしたとき、旧ドラの絵柄に固執していた私がバカだったと気づいたのです。完敗。
 ストーリーはほぼ旧作のままなんだけど、ラストのピー助との別れのシーンが素晴らしかった。本当に本当によかった。大原めぐみさんの泣きのお芝居がもう……すさまじくて。のび太君というキャラクターの強さと脆さ、そしてめいっぱいの優しさが伝わる、本当にすごい数分間でした。巻き戻して*5ラストだけ3回観たもん。

『映画ドラえもん のび太の新魔界大冒険〜7人の魔法使い〜』(2007年)

 絵は綺麗だし美夜子の母周りのエピソードが補強されたのもわかるんですけど、旧作で好きになれなかったスカートめくり等のセクハラシーンが23年後もそのまま温存されたのがつらかった。*6

『映画ドラえもん のび太と緑の巨人伝』(2008年)

 キャラデザが可愛くて、特にリーレ女王、お顔もお衣装もめちゃくちゃ好みでした。
 ただストーリーはちょっとお手上げ。誰がどこで何のために何をしているのか、ずっとよくわからなかった。
 ドラえもん映画でもこういうのあるんですね。学びになりました。

『映画ドラえもん 新・のび太の宇宙開拓史』(2009年)

 旧作が大好きなので期待してたけど、期待通り面白かった!
 説明がより丁寧になったし、アクションシーンも迫力が増したし、モリーナ姉さんもよかった。あとギラーミンさんがやたらかっこよくなってたぞ。
 チャミー、もともと可愛かったけど、リメイク版でも可愛くて愛しくてつらい。映画ゲストキャラの中でダントツで好き;;

ゼロ年代感想

 新声優・新キャラデザへの変更に伴い、かなり大きなシフトチェンジがあった。怖さや残酷さはなりをひそめ、ヒューマンドラマ重視の泣かせる話が増えたなという印象。絵もバージョンアップしたし、あと地味に間取りや街並みも現代風に変わりましたよね。
 ずっと変わらないでいるために、変わらなきゃいけなかったんだな。
 80年代の旧ドラを観ていた世代が大人になり、自分の子どもと一緒に新ドラを観ると思うと、そりゃまあ感傷的にもなりますよ。変わるもの、変わらないもの、長寿コンテンツならではの悲喜こもごもで、心揺さぶられまくりです。ゼロ年代でこんな感じなのに、この先私の情緒は持つんだろうか。お手柔らかに頼みます!!

【10年代】

『映画ドラえもん のび太の人魚大海戦』(2010年)

 面白かった! ゲストキャラの女の子が「かっこいい」と形容されるの素晴らしい。オンディーヌ女王もめちゃくちゃかっこよかったし。いいぞもっとやれ。
 ここのところ、マスコット的なキャラクターはただただ可愛いだけの子が多かったけど、今回のハリ坊は性格にクセがあって口も悪く、人間的でよかった。

『映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団〜はばたけ 天使たち〜』(2011年)

 え? 何? ピッポ??
 最初すごくびっくりしたけど、幼いながらに傷つきと葛藤を抱えた、とてもよいキャラクターでした。敵方にこういう複雑なキャラクターが登場すると、のび太君のシンプルな優しさが際立つのよ。あと歌がすごくよかった……。
 ただ、旧作とはなんかもう全然違うお話になってましたね。ん~~~~~個人的には旧作の方がシンプルで好きかもしれない。でもこれはこれでいいか。いやしかし、ミクロス好きだったからな。ううむ。

『映画ドラえもん のび太と奇跡の島〜アニマルアドベンチャー〜』(2012年)

 いやこれは……ん~~~~~。
 ちょっと露骨に教育的すぎるというか、いい話すぎるというか、「家族の絆」推しがクドすぎというか。でもまあ日本中が傷ついてた年だしな……心温まるストーリー欲しいよな……とか考えると、うう〜〜〜〜ん。
 はっきり言えるのは、ドラ映画はもはや「子どものための映画」ではなくて、「子どもと、その親のための映画」になったんだなと。映画館出た後、昭和生まれのお父さんが号泣してて、横で子どもがキョトンとしてるような光景が目に浮かびました。

『映画ドラえもん のび太のひみつ道具博物館』(2013年)

 めちゃくちゃ面白かった!!!
 ドラえもんのび太君の友情をここまで真正面から描いたドラ映画は初めてじゃないかしら。鈴を探すエピソード、すっごくよかった。
 全体にコミカルな作りで、敵(?)サイドも人間臭いキャラが多く、みんな愛しかった。ひみつ道具の図鑑を読んでるみたいでワクワクしました。
 それにしても、「四次元ポケットが盗まれたから」「修理に出しているから」など、ひみつ道具が使えなくなるシチュエーションはこれまでも多々あったけど、「ポケットの中にスッポンが住み着いたから」っていうのは斬新すぎて笑いました。

『映画ドラえもん 新・のび太の大魔境〜ペコと5人の探検隊〜』(2014年)

 旧作に非常に忠実な作りで安心感があった。お話が同じだからこそ、作画の進化がはっきり分かりますね。アクションシーンの迫力マシマシでした。
 それにしてもサベール隊長かっこよすぎる、あんなのズルじゃないですか?

『映画ドラえもん のび太の宇宙英雄記』(2015年)

「しずかちゃんはお風呂好き→水属性の攻撃ができる」という発想、画期的だと思う。しずかちゃんのお風呂好きがラッキースケベのためだけにある設定のように感じてられて辛い、でもお風呂好きはしずかちゃんの大事なアイデンティティでもあるわけで……という長年の苦悩が、ポジティブな形で昇華された感じ。一人スタンディングオベーションです。
 あとバーガー監督が可愛い。可愛すぎる。おもちゃ売ってたら買う。

『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』(2016年)

 ほぼ旧作に忠実だったけど、のび太のパパママとのエピソードやペガ・グリ・ドラコとの別れのシーンなどが補強されて、泣ける感じに仕上がっていた。
 ジェンダーの話ばっかりしちゃうんですけど、今作、タイムパトロールが女性だったのが個人的にものすごく嬉しかった。タイムパトロールはもちろん、政治家や科学者など、社会的地位が高そうなキャラクターは総じて、旧作では本っっっ当に男性ばかりでしたから(だからって別に全員女性にしろとは言わないが)。

『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』(2017年)

 世界観がユニークで面白かった! 氷細工コテ、超楽しそう。
 ストーリーも湿っぽくなく、明るい冒険ものを貫いていてよかった。ここぞというときのタイムトラベル、これぞドラえもん! って感じ。
 キャラデザが可愛いのと、終始寒冷地のため、お衣装がもふもふで可愛いのもよかった。特にフードをかぶってミノムシみたいになってるのび太君がたいそう可愛い。

『映画ドラえもん のび太の宝島』(2018年)

 めちゃくちゃ好き。
 敵方の造形が往年のNHK教育のアニメっぽくてめっちゃいい*7。ていうか世界観がそもそも往年のNHK教育アニメっぽい。好き。
 のび太君パートにもしずかちゃんパートにも良いシーンがたくさんあって、めちゃくちゃ面白かった。作画もこれくらいのサッパリ感が好き。アニメと地続きな感じがあって。
 フロックがかっこいいんだけど、そのかっこよさが「戦いが強い」とか「剣がうまい」とかじゃなく、「メカニック(プログラミング)が得意」なの、時代だな。うええ〜んシルバーファミリー幸せになってくれ;;
 EDで星野源さんの『ドラえもん』が流れてきて、また泣いちゃった。この歌本当にいいですよね。しみじみたまんないですよね。

『映画ドラえもん のび太の月面探査機』(2019年)

 我らが辻村深月大先生だぞ〜〜〜!!!
 月面探査という題材といい、敵の正体といい、20年代を先取りするようなストーリーでしたね。ラストの選択、理屈はわかるけど寂しかったよ。ふつうの人間として、カグヤ星で生きる未来もあってよかったんじゃないですかね;;
「想像力は未来だ! 人への思いやりだ! それをあきらめた時に、破壊が生まれるんだ!」っていうセリフ、心にグッと来ました。教科書に載せてくれ。

10年代感想

 監督や脚本がマ〜〜〜ジでころころ変わるので、お話のテイストも絵のタッチも年ごとにバラバラ。親世代ウケを狙ったなと思われる感動作があれば、ドタバタトンチキコメディあり、旧作のリメイクも忠実なものからラディカルな新解釈まで、多様を極めていました。
 ドラ映画歴1ヶ月の私でも戸惑うくらいなので、往年のファンは毎年気が気じゃないのでは……と思いかけたけど、いやいや、そんなの考えが狭いな。きっと、ドラえもんという概念をもっと広くとらえるべきなんですね。藤子先生亡き今、ドラ映画は、ドラえもんを愛するいろんな人が、それぞれの解釈で多様な物語を紡ぐ、大いなる実験の場となったのですね。そのほうがドラえもんっぽいよね。よし、いいぞ、なんでも来い。

20年代

『映画ドラえもん のび太の新恐竜』(2020年)

 また恐竜!? 3回目やん! と思ったら全然違うお話……いや全然違うわけではないんやけど違うお話……でした。どういう立ち位置なんだろうこれ。パラレルワールド? 一瞬ピー助映ったのあれ何? 有識者の方教えてください。
 言いたいことはわかるしめっちゃいい話だと思うけど、典型的な『みにくいアヒルの子』型のストーリーで、「実は白鳥でした」エンドでも別にいいんだけど「なのでやっぱり醜いアヒルのままではダメだよね」というメタメッセージが伝わったら嫌だなというか、何が言いたいかっていうと「キューは別に飛べなくてもいいよね」ってエンドも見たかったな。わがままですかね。
 あとタイムパトロールが歴史介入の定義についてどう考えてるのか聞いてみたい。どう考えてもアウトだと思うのだけど。私が長官なら是が非でも止めますよ。

『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021』(2021年→2022年)

 ううっめちゃくちゃよかった……。
 2022年3月公開なんですよねこれ。コロナの影響で公開延期になったせいであって、あくまで偶然なんだけど、どうしてもウクライナ侵攻のことを考えてしまった。
 あくまで偶然なんだけど、スネ夫が戦うことを嫌がる描写が旧作より色濃くなっていた気がするんですよね。「戦争は嫌だ」「怖い」「戦いたくない」「家に帰りたい」こういうセリフが必要だったんだよ。旧作はともすれば好戦的で、戦争描写がヒロイックになりがちだったけど、どんな大義名分があったとしても、やっぱり「戦争はいけない」という根幹のところはブレちゃいけない。すごくよかった。ありがとう。

『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』(2023年)

 ついにラストってことで滑り込みで劇場に観に行ってきました! 公開から2ヶ月経ってるのでさすがにもう上映は土日のみ、それも1日1回、早い時間だけ……とかになっていたにもかかわらず! 子ども連れでいっぱいでびっくりしちゃった。配信もありがたいけど、やっぱり劇場でみんなで観る映画はいいな。みんなで息を呑んだり、笑ったり泣いたり、豊かな時間でした。
 いやしかしパラダピアの暮らしキモかったですね〜〜〜〜! 「よくない人」たちを“矯正”するところから始まる、「いい人」たちのディストピア。怖すぎるぜ〜〜〜〜。ソーニャがドラえもん撃つくだりとか、もう叫びそうになりましたね。
「パーフェクトじゃなくたっていい、これが僕だから」というメッセージがとてもよかった。ジャイアンスネ夫はもちろんだけど、しずかちゃんの欠点が指摘されるの珍しいのでは。人間、凸凹があるから面白いんだよね。

【完走しました】

 ってわけで42作品完走しました。面白かった〜〜〜!
 最初のころはのび太君のダメっぷりにイライラさせられたんだけど、だんだんそのダメさが愛おしくなってきて、むしろダメであるからこそのび太君なのだと思えるようになってきた。いや別に算数0点のままでいいとは思わんしそこはまあもっと努力しろよと思うけど、そういうことじゃなくて、たとえば空の理想郷でのび太君が「パーフェクトじゃなくてもいい」と自分を肯定したとき、「そうだよ、それでいいんだよ」という深い安堵を覚えたのです。
 というのも、たぶんドラえもんという作品は、のび太君を一人の英雄として描こうとはしていなくて(実際のび太君は何度も世界を救うけど、にもかかわらず徹頭徹尾ダメなままである)、おそらくこのお話が描こうとしているのは、のび太君個人の成長とかではなく、のび太君を代表とする「「「人間」」」というオモロくも不可思議な生き物への、深い愛と期待なのではないかと思うのです。
 人間はみんな違ってみんなダメ、愚かで乱暴で意地悪で強情っぱりで、何度も何度も致命的な間違いを犯してしまう。けれどもなお、人間全体として見れば、長い長い歴史の中でちょっとくらいは、ほんのちょっっっとくらいは、マシな行いをなしえるんじゃないのか。のび太君一人の力では無理でも、不完全なもの同士バトンを繋いで行ったその先に、ワクワクするような未来(すなわちドラえもん!!!)が待っているんじゃないのか。そんな希望を抱かせてくれる、愉快で素敵な作品群でした。でしたっていうか、です。なぜならこれは現在進行形の物語だから。私たち一人一人がのび太君なのだから。
 できれば子どものころに観たかったけど、大人になって初めて観るドラえもん、マジで沁みます。みなさまもぜひ。

 いや長えわ。最後に個人的ランキングです。
【旧ドラ】3位:ねじまき都市冒険記/2位:宇宙開拓史/1位:海底鬼岩城
【新ドラ】3位:空の理想郷/2位:ひみつ道具博物館/1位:恐竜2006
【個人的ベスト】恐竜2006
インパクト賞】夢幻三剣士

 以上お付き合いいただきありがとうございました。みんなもドラ映画を語ろう。

*1:下品なので親に禁止されていた。バカ殿とかもダメでした。自分自身セクハラ的なノリが苦手なので別にいいんですが。

*2:「宇宙を作ることはできるか?」デザイナーベイビーの天才少女(不登校)とうだつの上がらない理系大学生が難問に挑む青春SF。誰が何と言おうと名著。映画版はまあ……色々言いたいことはあるけど……。

*3:実は恐竜→宇宙開拓史の間にも絵柄の変更があったのだが、初心者ゆえそこまで衝撃を受けていなかった。

*4:この話、長くなりそうなのでどこかでゆっくり語らせてください。

*5:死語。

*6:ストーリー上必要不可欠な要素でもないのに、「サービス」としてラッキースケベを入れてしまう世代、マジで早く引退してくれないかな。それが「誰」に対するサービスで、現在そして将来「誰」を傷つけうるのか、(特に子供向けのコンテンツの場合)真面目に考えるべきだと思うんですけど、どうですか。

*7:ふしぎの海のナディア』とか『飛べ!イサミ』とか『YAT安心!宇宙旅行』とか……伝わった人だけ頷いてください。