青の名前

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天川栄人のブログです。新刊お知らせや雑記など。

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好きで運動音痴やってるわけじゃない

 突然ですが、私は運動ができません。びっくりするくらいできません。

 最初にそのことに気づいたのは、多分、小1のマラソン大会で最下位になったとき。いや、小学校入る前にスキップができなくて泣いたときかな? とにかく、他の子が当たり前にできることが全然できなかったのです。

 たとえば体力テストは毎年最下位争い。あまりの身体の固さに、長座体前屈のとき、先生にそっと背中を押されるという不正があったほど。握力がなさすぎて、評価シートに「まずはものを握ることから!」という限界アドバイスを書かれたこともあります。

 当然、体育の成績は最悪。球技や武道の授業では全戦全敗がデフォ、プールで25m泳ぎ切れたことは一度もないし、体育祭の玉入れは6年間で2個しか入りませんでした。バレーボールではサーブが入るだけで敵チームからも拍手が起き、卓球をすれば「殺す気か」と言われ、歩き方にすら先生からマンツーマンの指導が入る始末。

 他にも山登りで吐く、シュノーケリングで「もうフィンを外して浅瀬で歩いてなさい」と言われる、太陽の塔の方がまだ腕上がってる、などなど枚挙にいとまがないのですが、キリがないのでこのへんで。

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太陽の塔。まあまあ四十肩

 別にいいんですよ、死ぬわけじゃないし。こうやってブログのネタにもできるし。運動できないことはもはや、自分のアイデンティティだとすら思ってきました。

 でもね、こっちだって別に好きで運動音痴やってるわけじゃないんですよ。当然だけど。

 

 というのもこの前、某TV番組の「運動神経悪い芸人」を見てて(番組名を伏せた意味がない)、ある芸人さんが「憧れてた先輩芸人が『笑かす』んじゃなくて『笑われ』てるの見るの辛いっすよ」的なこと言ってらして、「あーっ」て、思っちゃった。

 私もいわゆる「運動神経悪い芸人」でした。自ら笑われにいくタイプだった。だってその方が楽だからです。

 何が嫌って、体育の授業は団体競技が多いこと。古文の点数が悪くても隣の席の子が困ることはないけど、バスケが下手だとチームメイトに迷惑かかるでしょ。ヘマをするたびにイラつかれたり、腫れ物に触るような扱いをされたりするくらいなら、「お前マジかよウケる」ってネタにされてた方が、いくらかマシです。

 つまり私の場合、「笑われる」ことは、生存戦略だったわけです。運動神経悪くて、チームのメンバーに迷惑かけがちな自分が、どうにか周りから反感を買わずに、体育の時間を乗り切るための。

 いやそりゃ恥ずかしいよ。しんどいよ。上手に走ったり跳んだりできない。みんなみたいに器用に体を動かせない。嫌ですよそんなの、そりゃ。自ら笑い話にしてないとやってられなかった。私だけじゃなくて、そうやってなんとか精神や体面を保つために「笑われてる」子、結構いるんじゃないかと思う。

 別にだからって誰かを糾弾するつもりはみじんもないのだけど、でもまあ「できないことを笑う」風潮は実際もう時代遅れだし、それが生存戦略だとしても、本人や見てる人が「辛いっすよ」ってなるならさ、それはもう、やめるべきだよね。

 

 体育の授業ってどうしても競技志向、それもチーム戦になりがち。スコアがオープンで、誰が足を引っ張ってるのか、目に見えて分かってしまう。それって、できない子にはちょっと辛い。

 特に体格やスタミナの差なんかは個人の努力ではどうにもならん部分があるし、どうにもならんことで周りから馬鹿にされたり、劣等感を抱いたりするのは理不尽だよね。うーん、笑われてる場合じゃなかった。

 でも別に運動を憎んでるわけじゃないですよ。むしろ、大人になってみると、ウォーキングとかヨガとか、嫌いじゃないなって思える運動もあった。つまり誰とも競わず、誰にも迷惑かけず、上達や達成を目指さないスローペースな運動なら、それなりに楽しく取り組めるってことが分かったんです。自分、ヨガの木のポーズだけはなぜか得意だってことも分かった。

 オリンピック選手でもないんだから、人と比べて上手じゃなくても無問題。ちゃんと自分自身の身体に向き合って、自分にできる範囲で気持ちよく身体を動かせれば、それで十分なんじゃないのかな。考えてみれば当然なんだけど、もっと早く教えてほしかったな、そういうこと。

 

 なんてことをつらつら考えて、いろいろ調べて、で、いったん全部忘れて*1書いた本が2/26に出ます。

miraibunko.jp 

 紹介ページのあらすじだとちょっとわかりにくいんですが、作品後半は球技大会が舞台です。「球技大会ですか……」と編集さんにはヤヤウケだったのですが、超のつく運動音痴の青葉が、汗かいて走り回る話を書きたかったのです。

 1巻同様パズルも入って、とても楽しい本になりましたので、ぜひぜひ、読んでくださいませ!

 

  予約始まっています↓

books.shueisha.co.jp

 1巻はこちら↓ 

miraibunko.jp

*1:作家にとって一番大事な作業は、「膨大に調べて膨大に捨てる」ということだと思うんですよ。」(有川浩