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天川栄人のブログです。新刊お知らせや雑記など。

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プリキュア20周年に寄せて

 2月1日はプリキュアの日。プリキュアシリーズ20周年*1、本当におめでとうございます。

(しばし泣く)

 20年前に出会った日から、プリキュアは私の光であり、希望であり、理想であり、迷い多き人生における、数少ない絶対的な指針でした*2。毎週日曜日朝8時半、テレビの中で戦うプリキュアたちから、元気と勇気、そしてときに慰めをもらい、その力でもってまた次の一週間を乗り切る……それを繰り返して、早いもので20年。気づけば人生の2/3を、プリキュアと共に過ごしたことになります。

 ありがとうプリキュア

 中1で「ふたりはプリキュア」に出会い、その凛々しい佇まいに衝撃を受けたこと*3。高校のスクールバッグに「Yes!プリキュア5」の妖精ココとナッツのマスコットをぶら下げて登校していたこと*4。受験期、勉強のため朝早くからみんなで集まったファミレスのボックス席で、ひとりワンセグで「ハートキャッチプリキュア!」を見たこと*5東日本大震災の年、「スイートプリキュア♪」の「幸福のメロディ」を聴いて静かな癒しの涙を流したこと。大学のサークルで「スマイルプリキュア!」を流行らせ、ついには「キュア姉」と呼ばれるようになってしまったこと。デビュー作の改稿と院試&卒論が重なって死にそうになっていたとき、「Go!プリンセスプリキュア」のエンディングテーマ「夢は未来への道」を繰り返し繰り返し聴いたこと。修論執筆中は、研究室の先輩が描いてくれた「キラキラ☆プリキュアアラモード」のキュアショコラの絵をデスクに飾って、見守ってもらっていたこと。社会人1年目の年に「お仕事」がテーマの一つである「HUGっと!プリキュア」が放送された奇跡*6。コロナ禍でしんどい気持ちになっていたときには、「トロピカル〜ジュ!プリキュア」のトンチキっぷりが清涼剤になってくれたこと。激やせしてしまったタイミングで「デリシャスパーティ♡プリキュア」を見て、ご飯の大切さについて考え直したこと*7

 思春期から今日に至るまで、私は常にプリキュアと共にありました。本来のターゲット層である女児期はとうに過ぎていたけれど、多感な時期をプリキュアと共に過ごしたことで、より大きな影響を受けたような気がします。プリキュアによって人格形成されたといっても過言ではない。折々のタイミングで、プリキュアたちからのメッセージを風のように帆に受けて、人生という荒海の中を進んできたのです。

コロナ禍初期、ちみちみ編んだ(当時全員分の)プリキュアのモチーフ。使い道がない。

 この20年、プリキュアは私たちに、実にたくさんの大切なことを教えてくれました。

 女の子だって、自分の大切なもののために戦っていいのだということ。「可愛い」と「強い」は両立するのだということ*8。迷いながらでも走っていけるのだということ。夢は叶えたい未来への道そのものなのだということ。チグハグでばらばらなふたりでも、手を取り合えるということ。私たちはなんでもできるし、なんにでもなれるということ。女の子でも男の子でも、子どもでも大人でも、人間でも魔法使いでも機械でも宇宙人でも人魚でも、誰だってプリキュアになれるのだということ。

(もう一度泣く)

 どんなに苦しいときでも、プリキュアの教えたちは強く揺るがず、心の真ん中にありました。迷ったとき、「プリキュアならどうするか」と考えれば、たいていのことには答えが出るような気がするのです。プリキュアは闇を切り裂く光、旅の進路を照らす、絶対的な輝きなのです。

 いつかプリキュアになりたい。そう思って生きてきたし、今もそう思っているし、きっとこれからもそう思い続けるでしょう。そのために戦わなければならないなら、戦うでしょう。プリキュアたちの言葉はキレイゴトかもしれないけれど、誰もキレイゴトを語れなくなったなら、端的に言ってこの世は終わりだからです。

 だからこれからも、夢や理想を声高に語っていきましょう。行く手を阻む冷笑や諦観など、清々しく蹴散らしていきましょう。強く優しく美しく、未来を切り開いていく前向きな力、それこそがプリキュアの魂なのだから。

youtu.be

 ありがとうプリキュア。これからもどうぞよろしく*9

【2/2追記】

 昨日、5段落上で「女の子でも男の子でも、子どもでも大人でも」と書いたとき、念頭にあったのは、男の子プリキュアであるキュアアンフィニHUGっと!プリキュア)やおばあちゃんプリキュアであるキュアフラワー(ハートキャッチ!プリキュア)でした。
 つまり、「女の子は誰でもプリキュアになれる!*10」とは言いつつ、「女」の「子」ではなくてもプリキュアに変身するキャラは、既に存在したわけです。いたんだよもう既に(古参オタクムーブ)。

 とはいえ、いずれもゲストキャラの一時的な変身にすぎないというのは確かなところで、結局は「女」の「子」じゃん?という部分は、まあありました。従来サポート役に徹しがちだった「女の子」が主役として先陣切って戦うことの重要性は繰り返し確認されるべきですが、それでもまあ、時代はもうその先を要求しているわけです。

 で、今朝起きてニュースを見て、私はむせび泣きました。

natalie.mu (ビジュアルが出た時点でうすうす気づいてはいたが)男子でも成人でもプリキュアになれるんですね。文字通り誰だってプリキュアになれるのですね……!!「女の子だって暴れたい!」という願いからスタートしたプリキュアが、時代とともに変わり続け、「男の子だってプリキュアになりたい!」という願いを回収するまでに至る。20年間の凄みだ。

 ありがとうプリキュア。本当にありがとう。

 というわけで新シリーズ「ひろがるスカイ!プリキュア」は2/5(日)スタートです。全人類見ましょう。

*1:厳密には20年目。

*2:プリキュアについて語り始めるとマジで止まらないのであまり話さないようにしていましたが、最近作家仲間さんたちにもバレたので、隠すのやめました。

*3:プリキュアの中でも、なぎさとほのかのバディはとにかく格が違う。すれ違いを繰り返しながら深まったふたりだけの絆は最強なのです。全シリーズ全エピソードの中でベストを決めるなら、初代「ふたりはプリキュア」の第8話を推します。プリキュアオタクならみんな同意するでしょう。

*4:クラスメイトのみんな、引かないでいてくれてありがとう。

*5:引かないでいてくれてありがとう。

*6:初代は別格なので聖別するとして、他の17作品の中でのマイベストプリキュアはハグプリです。見て。

*7:もちろん全てのシリーズが好きだったわけではなく、ちょいちょい和解できないシリーズもあるのですが、そういう年は悪口を言わずそっと見るのをやめることにしています。

*8:「強くなること」は「男の子みたいになること」とイコールではないということ。女の子は女の子のままで既に強いのだということ。

*9:この後さらに一作ずつキャラやストーリーについて思いを語っていこうと思っていましたが、既にかなりのボリュームの怪文書になってきているので、さすがにやめます。とにかく言いたいことは、ありがとうプリキュア

*10:プリキュアオールスターズNew Stageの映画キャッチコピー

1月月報

 今年はブログをもっと稼働させたい。
 カイシャインのみなさまがよくやる(?)週報みたいなものに謎の憧れがあるので、今年は月報を書こうと思います。ただし書き方はよく知らないのでテキトウです。

【お知らせ】

 特になし。もうちょっとお待ちください。

【お仕事】

・原稿1。迷走中。

・原稿2。頑張りました。

・取材。いいお話が聞けました。感謝。それにしても、録音した音声データを後から聞くと、自分の猫かぶり声にドン引きする……。

・昨年と一昨年の文芸道場に応募してくださった高校生さんからメッセージが届いた。嬉しい。前々から高校文芸部の支援がしたくて、でもうまくできなくて、なんだかひとり相撲をしている感覚だったのだけど、去年からようやく現役高校生さんたちのフィードバックを得られるようになってきた。思春期における創作は、自由な想像力の発露という意味でも、不安や混乱のはけ口という意味でも、ものすごく大きな価値があると思っていて、実際プロ並みに上手い子もいっぱいいるのに、ちゃんとした「部活動」になってない学校が多くてもどかしい。できることはまだまだあるなと思いました。天川はこれからも文芸部を応援していきます。

【読んだ本とか】

かがみの孤城辻村深月(ポプラキミノベル)

 映画が話題ですが、原作未読だったので、児童文庫のキミノベル版で読みました。そしたら「え、これほんとに大人向けの一般書だったの? 元々キミノベル用に書いたんじゃないの?」って思うくらい、めちゃくちゃ児童書的でびっくり。テーマもモチーフも仕掛けも、何もかも。私はふだん児童書を書いているからそう思うんだろうけど、このお話が大人にも刺さりまくってるっていう事実は、児童書書きにとって、なんだか希望に思えます。子どものための物語を、丁寧に、真摯に紡ぐことは、かつて子どもだった大人たちまでも救いえるのですね。

book.asahi.com

『AIと社会 未来をひらく技術とのかかわり方』江間有沙(技術評論社

 こういうことを聞くにつけ、「偏見のある社会」で学んだAIが「偏見のない答え」を出せるわけないよね、と思う。AIによって得られる恩恵はもちろんたくさんあると思うけれど、同時に差別を温存するシステムになってしまうならそれはとても嫌だ。でもこれってAI技術者だけじゃなくて社会全体が考えるべきことだよな。

gihyo.jp

『一年間だけ。』シリーズ 安芸咲良(角川つばさ文庫

 年末年始にシリーズ一気読みしたんだけど素晴らしかったです。純くん;;

 児童文庫の恋愛もの、ファンタジックなものからリアルで繊細なものまで幅広く揃ってていいですよね。子どもが読むものだから、恋愛もなるだけ多様であってほしいと思う。もちろん、絶対に恋愛しなきゃいけないってわけでもないしね。

tsubasabunko.jp

【その他】

・昨年のクリスマスにサンタにカリンバをもらったので、毎日こつこつ練習しています。Color of the Windをだいたい弾けるようになって、Let It Goに入ったけど飽きて、今はBeauty and the Beastを練習中。アルペジオが難しい。

由加山に厄払いに行ってきました。ついでに金刀比羅宮にも行ってゆがこんぴら両参り。岡山が好きなので、しょっちゅう帰省しています。

・今年は個人的に頑張ろうと思っていることがある。続いたら報告します。

2022年ありがとうございました

 2022年お疲れさまでした。

 おかげさまで今年は児童文庫3冊、単行本1冊を刊行することができました。ありがとうございます!

 また、秋には高校生文芸道場の中国大会で講演とワークショップを行い、文芸部の高校生さんたちと交流できたのが嬉しかった。念願だった岡山舞台のYA『おにのまつり』の刊行も合わせ、ふるさとに少しは恩返しできたかなと思っています。他にもいろいろ頑張りましたがお知らせできるのは来年以降ですね。

 作家生活ももうすぐ丸7年、当初想定された出世ルート(?)には全然乗れていない私ですが、なにはともあれ小説書くの楽しい〜〜〜〜!!!です。めげてもしょげても辞めないぞ。

 ひとまずは今いただいているお仕事に誠心誠意取り組みつつ、来年は、
・テーマ性のあるしっかりめYAを書く。
・でもエンタメも諦めたくない。楽しい作品を書きたい!
・同人誌を作ってみたい。あるいは読書会。
・来年もワークショップやるぞ!
 なんてことを考えながら、焦らずゆっくり頑張っていこうと思います。

 ご感想やお手紙など、いつも本当にありがとうございます。Waveboxを開設したので、応援メッセージなどございましたらこの機会にぜひ↓

Wavebox👋 気軽に応援できる絵文字箱 | 天川栄人のWavebox👋

 

 *

 

 さて手元の読書記録アプリ*1によれば私は今年250冊くらいの本を読んだようです。中でも特に記憶に残っているおすすめ本を紹介して、今年の振り返りに代えようかと思います。

 なお言うまでもないことだが!!!私の本も!!!読んでね!!!

 

※以下全て敬称略、フィクション・ノンフィクションごった煮

●『スベらない同盟』にかいどう青(講談社

 講談社の担当編集さんと話すたびに、にかいどう青さんがいかにすごい作家か熱弁している気がします。すごいんですよ。すごいんです。発想のぶっ飛び方もヤバいんだけど、文章が好き。私はつるっとした文章よりクセ強な文章の方が好きなので。有沢佳映さんとかもそうだけど、自分だけの文体を持っている方はかっこいいのです。

 多作の方なのでどれから入ってもらってもいいんだけど『スベらない同盟』は絶対読んでほしい。あと『笑わない王子と恋愛科学部』(青い鳥文庫)も読んでほしい。

bookclub.kodansha.co.jp

●『愛と差別と友情とLGBTQ+』北丸雄二(人々社)

 前々からジェンダー論に関心があって、今年もたくさん関連本を読みましたが、強烈に印象に残っているのがこの1冊です。けっこうボリュームあるけどぜひ読んでほしい。ふわっとした善意で「なんとなくわかったような気がする」みたいなレベルに甘んじてたら何も変わらない。権利獲得のため、公に声を上げた人たちがいたから、社会は変わってきたのですよね。この辺り、『差別は思いやりでは解決しない』(神谷悠一/集英社新書)にも通じるかも。

(以下本作とは関係ないつぶやき)ジェンダー論やフェミニズムを学び始めてから、世界の解像度が上がってしまって、なんてことない表象がいちいち気になって苦しかったんだけど、ブルボンヌさんがそれを「知覚過敏」と表現されていて腑に落ちた。身に着けた繊細さを、自他を責める方向ではなく、オモロいものを見出す方向に使っていけたらいいよね。

www.hanmoto.com

●『スウィートホーム わたしのおうち』花里真希(講談社

 学生時代、メンタルをやられて引きこもりになりかけてたときに、部屋を片付けたらすっと気持ちが楽になったことがあって、だからってわけじゃないけどちょっと泣きながら読みました。モラハラ気質の父と片付けられない母という設定に、胸がキリキリ……でも主人公はかっこいい子なんです。おすすめ。

 花里真希さん、日本児童文芸家協会のサロンで一度お話する機会があったのですが、とっても素敵な方でした。新作を楽しみに待っています。

bookclub.kodansha.co.jp

●『天文台日記』石田五郎(中央公論新社

 岡山天体物理学観測所の副台長だった方の日記(風に構成された随想集?)。天文界隈で文筆家と言えばまずは野尻抱影だけど、星好きのみなさんには『天文台日記』もぜひ読んでほしいです。

 天文って理系と文系の交差点、最先端の科学技術と神話時代の物語がまじわるところ。「空は銀色、雲の上に上弦の月」「地平線に残るあかね色の夕焼け」「指をおいたらほんとうにこげてしまいそうなほど強い光」……などなど、詩的な表現にクラクラしつつ、さやかな星の光に思いをはせるのです。

www.chuko.co.jp

●『言葉の展望台』三木那由他講談社

「会話」や「言葉」についてじっくり真摯に考える哲学の本。エッセイ感覚で読むには歯ごたえありすぎだけど、文章は平易で読みやすいです。同じ著者の『会話を哲学する』(光文社新書)は『うる星やつら』や『ONE PIECE』など卑近な例がたっぷりで、さらに読みやすい。「考えながら読む」のって楽しいよね。2冊合わせてぜひ。

 ところで私はゲーム全くやらないんだけど、三木先生がゲームを語るとき、愛があふれてて好きなんです(クィアなみんな、魔法の時間だ!『Ikenfell』は居場所のなかった私たちが待ち望んだRPG)。

bookclub.kodansha.co.jp

www.kobunsha.com

●「龍ノ国幻想」シリーズ 三川みり(新潮社)

 いいから黙って全員読んで。今すぐ読んで。

www.shinchosha.co.jp

 おすすめ本の紹介、楽しいけど1年分一気にやるとわりと忘れてるしめっちゃ疲れることが分かったので、来年はもうちょっとマメにやろうかな。もう少しブログも稼働させたいな。

 

 *

 

 それでは今年も一年、ありがとうございました。どなたさまもどうぞよいお年を。

*1:「読書ノート」というシンプルなアプリを使っています。

『毒舌執事とシンデレラ』スピンオフ短編

『毒舌執事とシンデレラ』シリーズ(講談社青い鳥文庫)のスピンオフ短編「夢の、その先」が、青い鳥文庫のウェブサイトにて公開されました。

『毒舌執事とシンデレラ』シリーズを応援してくれていた読者さんたちに届きますように。よろしければ、感想を聞かせてくださいね。

※注意※ 物語の核心に触れる内容になっておりますので、本編未読の方はご注意ください!!

http://aoitori.kodansha.co.jp/series/dokuzatsu-shitsuji/

 以下、経緯と私の想いです。大っぴらに語るような話でもないので念のため隠します。読みたい方だけ「表示する」ボタンを押してください。

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 まず、『毒舌執事とシンデレラ』4巻発売のお知らせでなくてごめんなさい。『毒舌執事とシンデレラ』シリーズは、現在3巻までで、続きを出すことができない状況です。

 私が書きたくなくなったからとか、飽きたからとかではありません。何かトラブルがあったわけでもありません。単純に売り上げがイマイチだったからです。厳しいけれどそれが現実で、ただただ、作者である私の責任です。本当にごめんなさい。

 シリーズものは、読者さまから望まれて初めて続きを書けるのであって、続刊の保証なんかどこにもないのです。だから、最悪続きが出せなくてもいいように、大きな伏線の取りこぼしがないように、巻ごとに一応満足はいただけるように……毎回、そう思いながら書いているつもりです。

 ただ『毒舌執事とシンデレラ』の場合、重大な謎(月森は何者なのか?)が明かされないままになってしまっているのが、ずっと心残りでした。というのも、正直言って、製作陣は直前まで4巻を出す気満々で動いていたんです。続刊の可否って予想できないんですよ。本当に。

 でもまあ結局は、3巻で終わりということになってしまいました。ごめんなさい。誰が悪いわけでもないので、文句を言っても仕方ない。結果は結果として受け止めて、自分ひとりでなんとか乗り越えなければ……と、なんとか気持ちを入れ替えることしかできませんでした。

 *

 そんなこんなで、あっという間に3巻発売から半年以上が経った、先日のこと。『毒舌執事とシンデレラ』のイラストを担当してくださった三月リヒト先生から、久しぶりに連絡がありました。

 ちょうど去年の12月ごろ、3巻の作業中だった私たち。クリスマスが近づき、三月先生も『毒舌執事とシンデレラ』のことを思い出してくださったそうです。メッセージには、素敵なイラストが添えられていました。「月森さんに会いたいな」というつぶやきも合わせて。

 なんだかもう、ぼろぼろ泣いてしまいました。ありがたすぎて。この作品を大切に思っていたのは、私ひとりではなかったのだなって。

 思えば、お手紙や読者カードで、読者のみなさんからたくさんのエールをいただいていました。「続きを待っています」「次の巻が楽しみです」というお声は、たしかに届いていたんです。ひとりではなかったのですよね、最初から。売り上げとしては振るわなかったとしても、どこかで誰かが、たしかにこの物語を愛してくれていた。続きを待ってくれていた。そのことだけは、忘れちゃいけなかったのです。

 私も、会いたい。優芽や月森にもう一度会いたい。

 その思いが抑えきれず、せめて非公式で続きを書いて、ブログとかで公開してもいいですか、と、担当編集さんに連絡すると、なんと「それなら、青い鳥文庫のサイトに載せませんか」と言ってくださったのです。

 え、いいんですか!!!?

 驚いた勢いのままキーボードを叩き始め、その日の夜には、短編を書き上げていました。他の原稿の〆切もあるのに何してるんでしょうね。でもそれくらい、ずっと続きが書きたかったんです。担当さんもお忙しい中すぐにチェックしてくれ、三月先生も快くイラスト掲載の許可をくださいました。

 *

 というわけで、1巻からの伏線だった「月森の過去」がわかるエピソードを、公式サイトに掲載していただくことができました。これで読者のみなさまに最低限の礼儀を果たせたかなと、少しだけ肩の荷が降りた気持ちです。どうか楽しんでいただけますように。

 打ち切り作の続きを公式サイトに載せていただけるなんて、ふつうありえないことだと思います。今でも信じられないし、本当に嬉しいです。きっかけをくださった三月先生、ご快諾いただいた担当さんには感謝してもしきれません。ありがとうございます!

 そして、『毒舌執事とシンデレラ』シリーズを応援してくださった読者のみなさまに、改めて深く深く感謝を。ありがとうございます。本当に本当に、ありがとうございます。

 天川は幸せ者です。

 

最後に、もう一つおまけ。スピンオフ短編読了後にお読みください。

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 というわけで月森は20歳、優芽とは6歳差です。月森は義理堅いやつなので、少なくとも優芽が成人するまでは(優芽の方から告白してきたとしても)恋人になったりはしないでしょうね。優芽は猛勉強して社長になるでしょうが、月森はどうするのかな。なんだかんだで執事が性に合ってるから続けるんですかね。わかんない。でもふたりは絶対、一生一緒にいます。

高校生文芸道場2022

 11月12日、就実大学にて行われた第24回高校生文芸道場中国ブロック大会にて、散文部門の審査員および当日の講演と散文分科会講師を担当いたしました。

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 私自身も高校生のころこの大会に毎年参加していたご縁もあり、以前からお声掛けいただいていたのですが、コロナ等の事情でなかなか参加が叶わず。講師としては念願の初参加でした。

 コロナ前に比べれば参加人数が少ないと聞いていましたが、それでも中国地方各県の高校から約80名の参加があったそうです。各校の部誌がずらりと並んだ光景は圧巻でした。

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 講演会では、私が高校生だったころの部活の話をしたり、リアルタイムアンケートのサイトを使って高校生のみなさんに部活の現状を尋ねたりしながら、高校文芸全体を盛り上げていくために何ができるかについてお話ししました。

 会場からはたくさん質問も出て、楽しい時間でした。大きな花束もありがとうございます!

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 午後の分科会では、「『書ききる』『書き直す』の筋トレワークショップ」と題し、4人一組でリレー小説を4本書き上げ、さらにそれに赤を入れて改稿するまでをトータル2時間で行ってもらいました。

 なかなかにスパルタな内容でしたが、みなさんよく食らいついてくださり、参加してくれた9組とも素晴らしい短編を書き上げてくれました。みんなすごい! きっとこれからどんどん上手くなると思います。どうぞ頑張ってくださいね。

 

 他の分科会講師はといえば、俳人の柴田奈美先生、詩人の斎藤恵子先生、歌人の大森静佳先生と、そうそうたる顔ぶれ。私ひとりペーペーなので、ど緊張しながらも頑張ったつもりですが……楽しんでいただけたでしょうか。

 と言いつつ早速ポカ。配布プリントに感想アンケートつけたのに「回答してね」と言い忘れた天川です。散文分科会に参加してくれた方、もし見てたら回答してね……。

 

 お天気にも恵まれ、講師が一番楽しんでたんじゃないかと思うくらい楽しかったです。運営の先生方、本当にありがとうございました。高校生のみなさんが気軽に話しかけてくれたのも、とっても嬉しかったです。

 そしてなにより、後輩のみなさんに胸を張れるような作家にならねばと、身の引き締まる思いです。来年に向けて色々と準備をしておりますので、応援していただけると嬉しいです。

 

 というわけで年内は刊行予定ないのです。既刊をお楽しみいただければ幸いです↓

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000367377

https://miraibunko.jp/special/978-4-08-321699-2

 文学っぽいのもエンタメっぽいのも色々書いております。

 

✳︎

 

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 文芸道場の後は、高校のころの友達とお疲れ様会。当時の文芸部の部長(私)、副部長、会計の三役で集まりました。こんな風に卒業後も関係が続いていること、とっても幸せです。

【短編】僕らのいつか終わる夏

 我々は、断固、抗議する。
 その文面はこう始まっていた。我々は、断固、抗議する――……。
「何よこれ」
「抗議文、だろ?」
 私は眉根を揉み、がたつく椅子に背中を預けた。生徒会室はコンクリ打ちっぱなし。九月も半ばとはいえまだまだ夏、クーラーすらないこの元倉庫はもはや灼熱地獄だ。
「我々は、断固、抗議する」
 うだる私の前で、阿部はネクタイをゆるめ、うちわを片手にそれを読み上げはじめた。
「他でもない、先日行われた体育祭の件である。雨天決行と大風呂敷を広げておきながら、いざ雨がひどくなった途端突然の中止宣言。延期を求める我々の声にも耳を貸さず、途中経過で採点を下し、我々の体育祭を滅茶苦茶なものにした教師および生徒会の面々に、我々は断固抗議する。生徒同志諸君、我々の夏はこれで終わっていいのか。びしょ濡れになっても構わない、せめてフォークダンスだけでも踊らせてくれという悲痛な願いを、このまま忘れ去ることができようか。今こそ一致団結して怒りをあらわにし、体育祭のやり直しを要求すべきではないか……」
「くっだらない!」
 まだまだ続きそうな抗議文は、会計・佐和の一言でばっさりと切り捨てられた。
「それどこにあったんすか? 投書箱?」
「まさか。つか投書箱ってどこにあんのか俺知らねえし」
 こらこらそこの副会長。それでいいのか。投書箱は、ほらえーと、食堂とピロティと図書館と、あとえーと、
「会長も知らないんじゃん」
「うるさい」
「どこにあったんですか、それで」
「校内中、掲示板という掲示板にご丁寧に一枚ずつ。つか、気づかなかったの? 君たち」
 私と佐和はそろって首を振る。ああ、首の後ろが熱い。ふわふわの髪を耳の後ろで二つ縛りにしている佐和はいかにも涼しげだが、それにしたって暑い。暑さに殺される。
掲示板なんて見ないじゃんねえ」
「ですよねー」
 阿部は肩をすくめ、神妙に腕を組んだ。
「先生たちはもうカンカンでさ、さっさと全部取っ払っちゃったみたいだ。まあでも、もう全校に知れ渡ってるけどな。頼み込んで一枚だけもらってきた」
「ふうん」
 佐和は短いスカートをひらひらやって風を起こしつつ(仮にも男の子の前で、やめなさいったら!)、そのB5の紙に目を通す。
「差出人は……、M。きゃー、それっぽい」
「馬鹿、佐和、大ごとなんだぞ」
 阿部は叱ってから、こちらを見やった。
「どうすんの、会長」
「どうするって言ったって……」
 どうしようもないでしょう。まさか本当にやり直しだなんて、お上が許すはずがない。
「とりあえずは経過観察、ということで」
 任期満了まで近いし。私はそう付け加えた。

「こりゃ大変ですよ」
 翌日。インスタント亜熱帯、もとい生徒会室に転がり込んできたのは、もう一人の副会長、眼鏡の秦。短く刈った頭に一杯汗をかいて、それをさらにあおる熱風に顔をしかめた。
「聞いてるわよ、続報でしょ、抗議文の」
 佐和が右手のB5をひらひらやった。
「もうみんなその話題で持ちきりっすよ。昨日の今日でまたやられたって、先生たちも面目丸つぶれでやんの」
「こら、秦、ちゃかさないの」
「すみません」
 私がたしなめると、秦は一応しゅんとする。しかしすぐに元気を取り戻し、
「でも、もう先生たちも黙っちゃおかないと思いますよ」
「まあ、こんなこと企画されちゃあねえ……」
 私は本日三本目のレモンティーの紙パックに、ぷす、とストローをさした。
 抗議文第二弾の内容はこうだ。
 前半は前回同様、教師および私たち生徒会への抗議。体育祭の途中切り上げに対して、勝手だの横暴だの、つらつら書き並べてある。
 問題は後半。
「我々は繰り返し、体育祭のやり直しを要求する。これが聞き入れられなかった場合は、」
「……我々生徒が主体となり、ゲリラ体育祭を強行実施する所存である」
 しばらく室内は無音になった。むんむんと熱気だけが渦を巻いている。阿部がうちわであおぐ手を休め、親指の爪をちょっと噛んだ。
「……どういう意味だ?」
「そういう意味じゃないですかー」
 佐和は気だるそうに体をのけぞらせた。秦がうむと唸り、眼鏡を押し上げる。
スペイン語で小戦争、ですねえ」
 何が?
「ゲリラ」
 そうなんだ。ていうか黙れインテリかぶれ。
「ひどくないすか会長!」
「まあまあ」
 阿部がなだめる。佐和は体を戻し、そのまま頬杖をついた。目一杯むくれて、
「ていうかこの、『我々』っていうの気に食わないんですよねえ。何勝手に複数形にしちゃってんの、お前は生徒の代表かっつうの!」
「それが、そうでもないみたいなんだよ」
 秦はいそいそと、佐和の隣の椅子に座った。秘密の話をするみたいに、声を落とし、ぐるりと私たちを見回して。
「みんな、結構本気にしちゃってて、同志も出てきてるらしいっすよ」
「同志?」
「そう。あの体育祭、そうは言ってもやっぱり批判多かったでしょ。仕方がないとはいえ……特に三年生の先輩方はね、不満だったんじゃないですか、フォークダンスできなくて」
「三年がやったっていうのか? これを?」
 阿部がいきり立って立ち上がった。秦は慌ててぶんぶん首を振り、控えめに続ける。
「そうじゃなくて。擁護派が多いって話です。もっとやれって、煽ってる節あるみたいだし」
「そんなこと」
「阿部、それはでも、本当だよ」
「会長」
 昨日の今日だ、周りのみんなが浮き足立っている雰囲気は私だって感じている。
「でも、だって、体育祭中止をあたしたちのせいにされても困るじゃんかっ……!」
 佐和は一人、誰にともなく噛みついた。と、
「すみません、新聞部ですが」
 突然ドアが開く。あ、一瞬涼風。
「今回の件で、号外発行の許可を……」
 佐和と秦がこちらを見た。私は手で合図する。追い返して。
 優秀で従順な部下二人は物も言わずに立ち上がり、新聞部員を連れて生徒会室を出て行った。私は長くため息を吐く。
 つっ立ちっぱなしだった阿部はふんと鼻を鳴らして腰を下ろした。そして不意に、
「会長も、もっとやれって思ってんの?」
 なんて言いだすものだから、私はレモンティー吹き出しかけた。危ない、大切な水分源を無駄にするところだった。
「何言ってんのよ」
「だって」
 阿部は叱られて拗ねた子供のように、
「あの時、続行しましょうって最後まで粘ってたの、会長じゃん」
「……」
 まだそんなこと覚えてたのか、こいつ。私は頬を緩め、同時に胸を焼く青い痛みに目を細めた。
「俺は、でも、許せないけど、こういうの」
 そして阿部は静かに切り出す。
「俺たちだって最善を尽くしてたんだ。一番続けたかったのは、俺たちじゃないか。一番辛かったのは俺たちだろ。……そんなことも知らないでこいつ、」
「阿部」
「だって会長」
「阿部」
 私は阿部と目を合わせた。
「……それとこれとは、別でしょ」
「だけど」
「ねえ、私たちもう三年生よ? 私とあんたは今月で引退なんだし、事を大きくしないで」
 経過観察。無声音で念押しする。

 二週間ぶりに雨が降った月曜日。あれ以来ぱったり音沙汰のなかった自称Mが、唐突に事を起こしたのが、その日だった。湿気が増してほとんど殺人的な暑さの生徒会室で、
「今週土曜午後十一時三十分より、本校グラウンドにて、やり直し体育祭を実行する!」
 阿部が叫んだ。勢いに任せ、B5の紙を机に叩きつける。私たちは少し身を引いた。
「……我々の夏は終わらない。これが本当の体育祭だ。多数の同志が集うことを望む」
 私は暗記するほど読み返した続きを呟く。阿部は憤りを隠せないようだった。
「何が本当の、だ! じゃああれは偽物だったって言うのかよ! ……何が我々の夏だ。俺たちは俺たちで一生懸命に、あの時っ! あれは、あれで、俺たちのっ」
「先輩、落ち着いて」
 佐和が苦労して阿部を座らせる。秦はその様子を窺いながら、おずおずと口を開いた。
「……先生たち、完璧にキレてます。内容はもとより、……十一時半、だし」
「……夜の体育祭、ねえ」
「何考えてんのよ、こいつら」
 佐和の中ではもう、『こいつら』なのか。私は少し感慨を覚えた。いや、当然と言えば当然か。校内はもう完璧に体育祭やり直しのムードに染められている。彼らの夏の、やり場のないうっぷんは、霧散する前にもう一度集結しようとしているのだ。正確にかじを切れば、その勢いはあっさり肌を裂く凶器になる。
「でも、無理ですよ、現実的に考えて。ねえ?」
 佐和は阿部の肩に手を置いて、私の方に視線をやった。私は硬く、一度頷く。けれど。
「現実的とかどうとか、そんなこと言っていられなくなると思うな、多分」
「どういう意味ですか?」
 秦が眉をひそめた。私は重ねた手のひらにじっとりと汗を感じながら、うつろになりかける視線を一点に集める。
「じき、分かるよ」

 はたしてそうなってしまった。
「何をやってるんだ、あいつらはっ!」
 だんっ! 派手な音を立てて阿部は壁を殴った。ああ、コンクリ壁なのに、そんな真似。
「綺麗に感化されてますねえ」
 佐和は頬をひきつらせ、机の上に並べられたそれらを見やる。
「手口もコピーされてます。ティピカルな模倣犯、っすね」
 眼鏡のインテリ、秦は腕に爪を立てている。ティピカルってあんた、典型的ってちゃんと日本語で言いなさいよ。
「言ってる場合ですか」
「はい、ごめんなさい」
 下手に冷静なのは時に短所ですね。私は素直に反省した。しかし、これはこれは。
 赤から青から黄色から、あるいはざら紙に手書き、というものまで。
「我々はM主催のやり直し体育祭を後押しする! 大賛成だ! 断固参加する! もう一度ちゃんとフォークダンスを踊らせろ!」
 私は次々に読み上げる。視界の隅、阿部が震えているのが分かった。私はのどにつかえる重いものを無理やり飲み下し、一言絞り出す。
「……こりゃ、実行されるな」
「ちょっと、会長!」
 佐和が大声を出した。分かってるよ、私は鋭くそれを制した。
「わかってるよ、私がそれを許しちゃいけないことくらい。でも、……生徒の意志が固まってきてる」
 あんたたちだって、分かってるでしょう? 感じているんでしょう?
「だけどそれじゃ、俺たちの負けっすよ」
「どういう意味?」
「だって」
 秦は椅子の上であぐらをかき、肘を突っ張って俯いた。
「だってそんなの。先生たちと……俺たちが、非を認めるってことと、同義じゃないか」
 私は首を傾げる。汗でべとつく髪が揺れた。
「俺たちが、……非を認めて、あの体育祭が間違ってたってそう認めて、意味なかったってことにして。やり直すって結局、そういうことと同じじゃないですか」
「……でも、秦ちゃん! あたしたち別に悪くないじゃん!」
「だから負けだっつってんだよ!」
「落ち着け」
 自分のことは棚に上げ、二人を阿部がたしなめる。頭をぐしゃぐしゃにかいて彼は、
「とにかく、先生たちの判断を仰いで」
「先輩、それ間違ってますよお!」
「俺たちは先生のいいなりじゃないんだし、それに、生徒を煽るだけっすよ」
「でも俺たちじゃどうしようもないだろ」
「そんなっ……」
「佐和、秦」
 私は顔の前で両手の指を折り重ねた。
「職員室に行っておいで」
「「会長!」」
 ダブルサウンドが責め立てるけれど、私は視線をぶらさなかった。
「私たちには責任がある」
「何にですか、体育祭中止したことにですか」
「あれはだって、先生たちが無理やり、」
「行っておいで」
 真っ直ぐに、これは、命令。
「生徒会は絶対反対を表明します」
 二人は何か言いたそうにしばらく力んでいたが、ある時観念して出て行った。
 湿気のこもった残暑はまだしつこく私たちをあぶり、首の後ろで嘲笑っている。私は目を閉じ、これからのことを思った。
「……いいの、それで?」
 聞き取るのもやっとなくらい小さな声。私は顔を上げた。
「どういうこと?」
「いいの? 反対しちゃって。会長は」
「阿部、あんた言ってること矛盾してる」
「自覚してるよ」
 阿部は深くうなだれた。右足で一度、コンクリの床を蹴りつけて。
「何でこんなに必死なんだ、俺たち。馬鹿みたいじゃん、こんなの」
「……夏だからじゃない?」
 慰めにもならない言葉。ああ、どうしてこんなに皆、夏にしがみついているのだろう。今となっては何もかも終わったことって、いつまでも諦めきれずに。あの生暖かい、少し大人びた斜めな視線を受け入れられずに。
「……会長」
「何?」
 気付けば阿部が立ち上がり、こちらに手を差し出していた。右足を引いて、左の掌を上に向けて。
 私はしばらくきょとんとして、ああ、って素っ頓狂に頷いた。少し笑い、立ち上がる。
「たららったったららららったった」
 女子の右肩の上で右手を、男子のお腹の前で左手を重ねるバルソビアナ・ポジション。まずは左足を前、後ろ、次は右。三歩歩いて、
「踊れなかったのは俺たちも同じじゃんね」
 下手な歌に交えて阿部はそんなことを言う。
「そうね」
 くるっとまわって次の人、がいないので、また阿部と。元のポジションに戻り、左足を前、後ろ……。阿部は呟くように問うた。
「……どうするつもり?」
「どうにかする」
 決意を灯して、ステップは軽く。迷ったって今さら、もう戻れないのだし、ね。


三十を超す抗議文、読ませて頂きました。
丁度任期満了間際、我々の責任については
目をつむっていただきたい。でも、学校も
公共の場であることを考えて下さい。幼稚
園児じゃないのだから、あなた方のやり方
には遺憾というより他ありません。土曜の
十一時には学校を封鎖する予定です。皆、
一度ゆっくり頭を冷やしてください。少し
時がたてば、分かり合えます。     
         生徒会長 長野まどか




「いやあ……」
「集まりましたねえ、しかし」
 土曜、十一時。夜のやり直し体育祭は、結局実行される運びとなった。……ただし、本校グラウンドではなく、三丁目公園で。
「今頃先生たち、必死で学校見張ってますよ」
 簡易本部。長机と椅子だけのそこで、懐中電灯片手に佐和が可笑しそうに言う。
「「馬鹿、ちゃかすんじゃない」」
 私と阿部の声は綺麗に重なった。
「それにしたってすごいっすよね、俺、言われるまで気付かなかったし」
 秦がメガネを押し上げ、くしゃくしゃになったB5の紙を取り出した。あのあと、校内のいたるところに貼り回った生徒会の声明文。
「三、丁、目、公、園、に、十、一、時」
 秦が各行の頭文字を拾っていく。私は首を回し、馬鹿みたいに晴れた夜空を仰いだ。
「ほんの思いつきよ。私だって分かってくれるか不安だったわ。……でも予想外。こんなに集まるとはね。ほとんど全校生徒じゃない」
「これがあたしたちなりの返事ってことですね? あの抗議文への」
 佐和はにやついている。この計画を話したときのこいつの喜びようと言ったら! 結局私たち生徒会が一番、このやり直し体育祭に賛成したかったのだなんて、ぼんやり思う。
「馬鹿言ってないで早いとこ整列させて。近所の方には確認取ってあるけど、うるさくならないようにね。短縮プログラムに文句は言わせない。先生に嗅ぎつけられる前に全部終わらせるよ!」
「はい」
 優秀で従順でこの上なく可愛い後輩二人は、弾けるように笑って駆けて行った。
「……いやあ、やるなあ、会長」
 と、隣で阿部がくつくつ笑った。
「だから、これはほんの思いつきで、」
「嘘」
 阿部は私の言葉を遮って、こちらを覗き込む。にやりと意地の悪い笑みで、
「初めからこうするつもりだったんだろ? ……M、さん」
「!」
 私は瞠目した。闇に紛れるよう声をひそめて、低く問う。
「……分かってたの?」
「分からいでか」
 阿部はあっけらかんと笑った。それがあんまりあっさりしていて、私は一瞬呆けてしまう。やがてゆっくりと唇を噛み、目を伏せた。
「……怒るかと思った」
 私が呟くと、
「まあね」
 阿部は軽く頷き、静かに言った。
「……ねえまどかさん、何も間違ってないんだよ、多分。俺たちの夏は、全部」
 必死でも馬鹿みたいでも、無意味じゃない。
「ま、なんにせよ、よくがんばりました」
 なんて、阿部は平然と。私は鼻の付け根に柔らかな刺激が集まるのを感じた。視界がゆるむ。仏頂面のまま、歯を食いしばった。
 深海よりももっと深い青を流した空の下、プログラム一番は百改め七十五メートル走。
 蒸し暑さも夜に飲まれて、ひんやり耳を掠める風に、私たちの夏も終わるね、なんて、悔しいから言わずに心にとどめておく。

 

 

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 高校三年生のとき(太古の昔!)に書いた短編が出てきたので、そのまま載せてみました。今だったら絶対こうは書かない、書くべきではないという表現も多々ありますが、直し始めたらキリがないので一字一句当時のままにしてあります。昔の方がよく書けてるじゃん、と思われなければいいですが。*1

 この作品は、高校生文芸道場という文芸部の大会で、県大会、中国ブロック大会ともに最優秀賞をいただきました。その年の県大会の審査員は八束澄子先生、中国ブロック大会の審査員は金原瑞人先生。今思えば恐れ多すぎて冷や汗ものです。お二人にいただいた選評は今も大切に保存してあります。

 そして縁あって今年、その文芸道場中国ブロック大会で、散文部門の審査員を担当することになりました。*2この大会がなければ小説家を目指すこともなかったと思うと、なんだか感慨深いです。恩返しってこういうことを言うんでしょうね。

 分科会では、ずっとやりたかったワークショップもやる予定。後輩のみなさんにとって実りある会になるよう、ただ今もろもろ準備中です。楽しみ!

*1:『悪魔のパズル』1巻を読んだ方は、天川昔からこういうの好きなんやなと思ってください。

*2:岡山県大会はもう数年お手伝いしているのですが、今年は中国ブロック大会が岡山で開催されることになったので、二つの大会を兼ねる形です。