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天川栄人のブログです。新刊お知らせや雑記など。

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小説を書こう、みんなで。

※以前noteに掲載したものに加筆修正し、再掲しました。理由は最後に。

共作の楽しみ

 私、これでいて高校時代は熱血部活人間だったのです。
 で、部活で何をやっていたかというと、書いていたのです。いわゆる文芸部員です(兼部で科学部にも入ってて、天体観測とかしてました!)。

 文芸部(母校では文學部という名前でしたが)って何をする部活なの、とよく聞かれるのですが、放課後部室に集まってダラダラ、もとい、みんなで書いていました。

「みんなで」ってところが重要で、個々が個々の作品をひとりで書くのはもちろんなんだけど、複数人での共作も、盛んに行っていたのです。

 文芸部員各位にはおなじみかもしれないのですが、楽しくて勉強になるので、備忘録がてら、普段の部活やワークショップでやった共作活動をまとめてみました。

 モノ書き仲間を2、3人集めて、レッツトライ。

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(難易度★)お題/テーマ小説

 お題やテーマから想像を膨らませ、それぞれ自由に創作します。
 テーマは言葉でもいいし、ジャンルでもいい。色でもいいし、歌でもいい。1枚の写真から物語をつくる、なんてのもいい。
 俳句だと吟行っていって、外を歩きながらその場の題材で詠んだりもしますが、そういうのもいいかもしれませんね。文芸部に合宿ってあるのかしら(母校にはなかった)。楽しそう。

 簡単すぎるなら、条件を増やしてみましょう。
 三題噺とは落語の用語ですが、お題も3つほどになるとなかなかタフです。制限が多いほどうまく作れるタイプの作者もいたりするんですけど。

 他にも、舞台を縛る。時間・時代を縛る。冒頭1行、ラスト1行を縛る。このセリフを必ず入れる、などなど。逆にこれは入れちゃダメ、みたいなのもありかも。遊び方は無限大です。

 もちろん、条件を満たせばそれでいいというわけではなく、条件を満たし、かつ、小説として面白いのが理想です。制限の中でいかに自分らしく表現するかは腕の見せ所。同じテーマで創作していても、作者によって必ず個性が出るので、他の人の作品を読み比べるのも楽しいものです。

 ちなみに私が最近参加したこちらの同人誌では、「YA小説」「おとぎ話のリライト」「舞台は岡山」「時期は冬」「きびだんごを出す」「イルミネーションを出す」(+できれば他の方の作品とからめる)という条件で短編を書きました。後述のシェアードワールド小説とも言えますね。よければ読んでみてください。

 

(難易度★★)リレー小説

 少し書いたら次の人へ、また少し書いて次の人へ……という具合に、みんなで順繰りにひとつのお話を作っていく小説。経験者も多いのでは?

 リレー小説で一番難しいのは、終わらせることです。ダラダラ続けてると、収拾がつかなくなる恐れがある。必ず何回で終わらせる、など決まりを作りましょう。

 暗い話ばっかり書く人とコメディしか書かない人なんかを同じチームに入れると、話が暴走して大変なことになります。行き当たりばったりに任せてもいいのですが、やはり書く以上は、小説として一応の完成度を目指したいもの。方向性や落としどころをあらかじめ共有しておくと、話が脱線せずに済みます。ラストの1行とかを縛っておくといいかもしれません。

 もう一度言いますが、リレー小説で一番難しいのは終わらせることです。未完のリレー小説を押し入れの中で何年も眠らせたままの天川、お前に言っているんだ。

 

(難易度★★)リレー小説②即興バージョン

 もう少しタフな訓練をお望みなら、仲間を4人集めましょう。制限時間1時間で、短編リレー小説を即興で4本書き上げます。

1・原稿用紙を用意し、4人それぞれに配る。

2・最初の15分で、各自、起承転結の「起」の部分を書く。書き起こしは悩みがちなので、最初の1行だけあらかじめ指定しておくと楽です。15分過ぎると強制終了。時間内に、なにがなんでもお話を立ち上げます。

3・それぞれ右隣の人に原稿を渡す。すると、左隣の人が「起」を書いた原稿が回ってくるはずなので、次の15分ではその続きに「承」の部分を書く。

4・同じ要領で、続く15分では、一番目の人が「起」二番目の人が「承」を書いた原稿が回ってくるはずなので、その続きに「転」の部分を書く。回を追うごとに読まなければならない部分が増えるので、少しインターバルを設けてもいいかもしれません。しかし制限時間にはシビアに。とにかく即興で続きを書きます。「結」を見据え、なにがしかの事件を起こしたいところ。

5・時間になったら原稿を回し、最後の15分で「結」。ここでは未完は禁止です。他の3人が「転」までつないだ原稿を、なんとかして落とします。これで、同時に4本のリレー小説が完成したことになります。

 各パート、必ず制限時間内に書き終えること。おのずと書ける量は限られます。物語をうまく進行させるには、どのパートでどういうことを書かなければならないのか、いやというほど体感できるはずです。もちろん難しければ制限時間を伸ばしてもOK。

 これ、最初はかなり難しいです。まともな小説になると感動します。何度か繰り返すと、起承転結のリズムが体に染みつきます。このリズムが合わないなと感じる人は、「序破急」「三幕構成」などを学ぶといいでしょう。

 

(難易度★★)シェアードワールド小説

 世界観や登場人物を共有して創作する。スター・ウォーズやマーベルの世界観を想像すると分かりやすいかと。もちろんそんなに壮大なものではなくとも、同じクラスが舞台の話で、共通の登場人物が登場する、なんてだけでも、立派なシェアードワールドです。

 ただ、本当に「世界を共有」しようと思うなら、その舞台がどういう歴史をたどってきたのか、どこに何があって、どういう人間がどういう暮らしをしているのか、など、すり合わせるべき事項は思いのほかたくさんあります。書き始めてからも、お互い何度も確認が必要かもしれません。

 ある一つの駅を舞台にした小説群を、みんなで書いたことがあります。メンバーは5、6人くらいだったかな。駅が建てられてから、町がにぎやかになり、やがてさびれ、廃線になり、駅舎が廃墟になるまで、を、それぞれ時代をずらして書きました。

 ところが、事前にしっかり駅の立地や特徴などを話し合わなかったせいで、「同じ駅」感が全然出ず、ただの駅小説の集合になってしまったような。それはそれで楽しかったですが。

 

(難易度★★★)モザイク小説

 ある事件を、それぞれ別の視点から描く。ひとつひとつはバラバラの欠片だが、すべてを読むことでモザイク画のように大きな一つの物語が見えてくるような小説群。

 やってみたかったけど、ついに叶わなかった。本気でやろうと思ったら、相当の打ち合わせが必要でしょう。でも楽しそう……やってみたい……。

 

だいじなこと

 いろいろご紹介しましたが、全てに共通する重要なことは、以下の点。

1・必ず〆切を設定すること。書ききらないと意味がありません。

2・必要なら枚数制限を課すこと。書ききらないと意味がありません。

3・書きあげたら、自他ともに作品をしっかり読み合うこと。みんなで読んで初めて楽しい活動です。

 他にも色々あると思いますよ。架空のキャラになりきって手紙を送り合う往復書簡とか、誰が書いたかわからないように書き、作者を当て合う覆面小説(作者人狼)とかね。

 とにかく、「みんなで書くのは楽しい!」のです。

 

以下よもやま

 考えてみれば、お話を作ることって、小さなころは当たり前に共同作業なんですよね。たとえば、おままごとや、お人形遊びって、その場のみんなでひとつの物語を作っていることと同じじゃないですか。それぞれ異なった発想が自由に入り混じり、約束事ができ、それを裏切るような展開が生まれ、そうして物語が育っていく。物語は生き物です。

嵐が丘』や『ジェーン・エア』で知られるブロンテ姉妹が、小さなころ、アングリアやゴンダルという名の独自のファンタジー世界を構築していたことは有名ですが、きょうだいで一緒に作った世界で、「みんなで」物語を紡ぐ気持ち、分かる気がするのです。物語を誰かと共有すること、ともに世界を作り上げていくことは、本当に幸せで豊かな営みだと思う。

 というのはまあ余談だけれど、モノ書き仲間がたくさんいるなら、一緒に遊ばない手はないですよね。最近はめっきり機会が減りましたが、また誰かと共作したいなあ、と思う日々です。

 

 ***

 

 という記事を以前noteに書いたのですが、noteは閉じちゃいましたので、こちらのブログに再掲しました。

 というのも、私はここ数年、高校生文芸道場おかやまという、文芸部の岡山県大会のお手伝いをしています。ところが、事務局の先生曰く、この数年で、県内の高校の文芸部人口が激減し、部の存続さえ危うい学校もあるらしいのです。

 もちろん、単に生徒数の減少ということもあるでしょう。でも、コロナのせいで、部活動ができない。大会やイベントが中止になる。そんなことがもう2年も続いています。モチベーションが下がるのも当然だと思います。

 別に家でひとりで書けばいい? 投稿サイトだってあるわけだし? まあそうかも。でも、部活動でしか得られない感動や気づきって、絶対あるんですよ。上記の共作の楽しみが、まさにそれです。

 他にも、みんなで部誌をつくったり、読書会や歌会・句会を開催したり、ゲストをお招きして話を聞いたり……。ひとりじゃできないことが、いっぱいあるんです! 後輩たちがそういう機会を失って、意欲をなくしているとしたら、私はめちゃくちゃ、めちゃくちゃ悲しいです。

 一番つらいのは学生さんたち本人だから、外からわぁわぁ言ったって仕方ないのだけど、どうかどうか、書くのをやめないでほしいです。「みんなで書く」楽しさを忘れないでほしいです。

 私も高校文芸出身の者として、何かできることを探します。ワークショップやりたいやりたいと言ってもう数年たっちゃってるんで、来年こそ、何とか。

【YA短編】「YA小説を書いてみよう部2021」に参加しました。

 YA・児童文学作家の梨屋アリエさん主催「YA小説を書いてみよう部2021」に参加させていただきました!

bccks.jp

 ↑アンソロジーがリンク先より無料で読めます。短いのでぜひ!
 地元岡山への愛が爆発しております🍑

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悠太が暮らしているのは、私の実家のあたりという設定です。ひたすらこういう風景。電車が少ねえんじゃ。

 私はもともと高校文芸出身で、そのころは自身と同じ高校生が主人公の短編ばかり書いていました。だから考えようによっては野良のYA小説書きだったと言えなくもないのですが、とはいえ「YA小説書くぞ!」と意識して書いたのは初めてです。

 YA(Young Adult)小説とはなんぞや。正直いまだにうまく定義できないのですが、思春期の心と体の変化、形のない苛立ちや不安、みたいな部分を、白黒つけずに繊細に書いてみたいなー、と思いながら書きました。

 書き手としてはまだまだ勉強が必要ですが、書いてみて改めてとても面白いジャンルだなと思ったし、たくさん学びがありました。活動の中で得たことを、作品にきちんと落とし込めていればよいのですが。

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岡山駅前の桃太郎像。犬、サル、キジ、あとたまに鳩を従えている。

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駅前の大通り。冬になるとイルミネーションがあるとかないとか。(画像提供:友人)

 実は同人誌に参加するの初めてだったんです(お招きいただいてちょろっと寄稿したことはあるけども)。みんなで話し合いながら一冊の本を作っていくのって、本当に楽しいですね。高校時代の部誌制作を思い出しました。また何か機会があればやってみたいな。

 もちろん商業でも! YA小説書いてみたいぞ!
 あと、岡山が舞台の小説ももっと書きたい!

 夢は広がるばかりです。

【短編】ミオの話

※以前noteに載せたものの再掲です。

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 金曜の晩。家に帰ると、ドアの前にミオがいた。
「びっくりした。ミオじゃん。半年ぶり?」
 ミオは私の言葉には答えず、ただ顎をクイッとやって「いいから早く入れろ」という仕草をした。可愛くないやつだ。
 私は鍵を開けながら横目で彼女を見る。相変わらずきゃしゃな身体に大きな目、全身真っ黒で、いつもどこか怒っているような顔。
「ちょっと痩せたね」
 ミオは不機嫌そうに鼻を鳴らし、家主の私よりも先に部屋に入った。

✳︎

 ミオが私の家に転がり込んできたのは、三年前の春だった。
 飲み会帰りの真夜中。身体の芯まで突き刺すような寒さの中、ミオは私のアパートの前で、月曜の朝の生ゴミみたいにうずくまっていた。
「えっ、死んでる?」
 身体をさすると、彼女は呻き声を上げて私の手を振り払った。命に別条はなさそうだったけれど、こんなに冷える日にこのまま放っておくのもどうかと思われて、私は躊躇いつつも、彼女を家に連れて入ったのだった。
 私は彼女をお風呂に入れ、翌日の昼まで眠らせておいた。
 彼女の身体は傷だらけだった。

 それ以来、ミオとの二人暮らしが始まった。
 といっても、ミオは好きなときに出て行くし、好きなときに帰ってくる。ご飯は私が用意することもあるし、彼女が勝手にどこかで食べてくることもあった。
 ミオは無口で無愛想で、短気なくせに構ってちゃんだった。虫の居所が悪いと、そばにいるだけで怒られたりした。かと思えば私のベッドで一緒に眠りたがる日もあった。
 どこから来たのかも、年齢も、本当の名前すら分からない。駅前の飲み屋街をうろちょろしているのを見かけたこともあった。そういうときミオは私のことを徹底的に無視した。後でミオが後ろめたそうな顔で帰ってくると、私はなんだか勝ったような気持ちになったものだった。

✳︎

「ごめん、今食べられるもの何もないわ。ビールしかない」
 試しに冷蔵庫を開け、その寂しさに我ながら悲しくなりつつ、ミオの方を振り返る。すると彼女はもう我が物顔でソファでくつろいでいた。
「元気にしてた? 何しに来たの?」
 無言。
「まあいいけど。泊まっていきなよ」
 無言。
 この感じも久しぶりだ。ミオは愛想というものを知らない。だから私も気を遣わないで済む。
 ミオの隣は楽だった。地方大を出て上京して数年、「こんなはずじゃなかった」の繰り返しでうんざりしていた私にとって、ミオと一緒にいるときだけが唯一自分に戻れる瞬間だったのかもしれない。

 夢に燃えてトーキョーに出て来たはずだった。でも都会だからって何が変わるわけでもなかった。女だから新規顧客は任せられないと言われ、田舎の親には早く結婚しろとせっつかれ、 課長のつまらない冗談に中身のない笑顔を返すための筋肉ばかり発達する日々。その全てが、あまりにも典型的な苦悩の数々が、自分が何者でもない存在であるという事実を突きつけてくる。テンプレートみたいな人生。標準プラン挫折つき。夜も眠れないほど辛くても、愚痴ったそばから「分かる〜」の一言でねじ伏せられてしまうのだ。
 いつだって空回りしていた。月曜日が来るたびに絶望し、家に帰ると自動的に涙が出た。そういうとき、ミオは何も言わなかった。慰めることも元気づけることもしなかった。ただすすり泣く私に背中を預けてじっとしていた。
 ミオは優しくはなかった。でも、ミオの温度とか匂いとか吐息とか、そういうのがあったから、私はギリギリ生きていられた。
 心を殺して週5日働き、土曜は死んだように寝て、日曜の昼ごろようやく起き出してビールを飲みながらテレビを見た。そばにはミオがいた。それでよかった。

 そういう日々が三年ほど続いた。
 私は惰性で働き続けた。ふとした瞬間に隙間風みたいに虚無が吹き込んできたけれど、もう大人だったから、気づかないふりをすることができた。そういうのばっかり上手くなった。
 ミオは、だんだん家に帰らなくなった。
 何が原因ということはなかった。ミオはもともと気まぐれだったから、数日帰ってこないこともよくあった。それが一週間になり、三週間になり、気づけばミオが家にいる日の方が少なくなっていった。そうこうしているうちに、私には恋人ができて、ミオはいよいよ私の家に寄り付かなくなった。
 同時に、ミオは体調を崩していった。
 今思えば、どこか悪かったんだと思う。夜中、部屋の隅で蹲っていることが増えた。大声で呼びかけても反応しないこともあった。
 でも、ミオは医者にかかることを頑なに嫌がった。ある日、私はついにしびれを切らし、彼女を無理やり病院に連れて行こうとした。ミオは本気で怒って、家を飛び出した。
 その日を境に、彼女はぱったり姿を現さなくなった。

✳︎ 

「どこで何してたの?」
 ミオは答えなかった。代わりに、目ざとく私の薬指に光るものを見つけ、恨めしげに睨んだ。説明するのは私の方ということだ。
 私は苦笑し、ビールを煽った。
「やっぱお腹すくな。ちょっと待ってて」
 キッチンを漁ったらスパムの缶があったから、適当に焼いて、ちびちびつまんだ。ミオにも勧めたけど、ミオは食べなかった。
「結婚するの。仕事辞めるんだ。この部屋も来月引き払う」
 私が観念して告白すると、ミオは怒ったような顔をした。そんな反応しないでよ。
 婚約者は基本的にいいやつだ。きっと私を大事にしてくれる。そのうえ銀行員で、春から支店長になる。後悔はない。でも、
「なんだったんだろうね、この数年間」
 私の東京での日々。心をすり減らした会社生活。結局何者にもなれず、何も成し遂げられず、悩んだ挙句、誰かの作った幸せの型に自らはまりに行くのだ。
「……なんだったんだろうね」
 ミオがあくびをした。
「もう寝ようか」
 ミオはしぱしぱ瞬きした。シャワーも浴びず、私たちは久しぶりに並んで眠った。

 夢の中で、ミオの声を聞いた。
「あたし、もう来ないよ」
 つんとした、不機嫌そうな声で、ミオは言った。
「もう来ない。さよなら言いにきたの」
「……そうか。そんな気はしてたんだ」
 奇妙な浮遊感の中、ミオの声はこう尋ねる。
「あたしがいなくなったら寂しい?」
「寂しいよ」
「でもいつか慣れるわ」
「そうかもね」
 ミオが笑った気がした。そして彼女は言う。
「ねえ、楽しかったね?」
「うん。楽しかった」
「頑張ってたよ、きみは」
「うん。ありがとう、ミオ」
 ミオと過ごした日々は、きっと無駄じゃなかったよ。

✳︎

 目がさめると、泣いていた。
 私の隣に、ミオはいなかった。
 しばらくベッドでぼうっとしていると、玄関の鍵が開く音がした。婚約者だった。そういえば今日ランチに行くって話してたんだっけ。
「どうしたの? 何かあった?」
 ずいぶん酷い顔をしていたらしい。彼は心配そうに尋ねた。
 私はベッドの上で膝を抱えた。
「ミオが来てたの」
「えっミオちゃん? 久しぶりじゃん。俺も会いたかったな」
 少し笑う。それはもう無理だから。
「あの子もう来ないよ」
 私は窓の外を見やる。よく晴れていた。
「さよなら言いに来たんだって」
 彼は少し考え、落ち着いた声で言った。
「そうか。分かるっていうもんね」
 その後、彼はベッドに腰掛けた。赤ちゃんにやるみたいに私の頭を撫でながら、
「ねえ、どうしてミオちゃんって呼んでたの?」
「尻尾が綺麗だったから」

 美尾。きゃしゃな身体に大きな目、全身真っ黒で、いつもどこか怒っているような顔。
 無愛想で気まぐれで、でも弱い私に寄り添ってくれた。

「いい子だったね」
「うん」
 ミオ。もう会えないけど。
 楽しかったよ。じゃあね。

デビュー5周年を迎えました!

 天川栄人です。おかげさまでこのたび、デビュー5周年を迎えました。

 こうして作家を続けられるのは、ひとえに作品を読んでくださる読者様のおかげです。本当にありがとうございます!

 また、いつもお世話になっている出版社様、編集部の皆様、イラストレーター様、デザイナー様、校正様、印刷所様、書店様、図書館様……その他すべての関係者の皆様に、この場をお借りして厚くお礼を申し上げます。

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おかげさまで既刊は8冊になりました。

 デビュー前、授賞式で、KADOKAWAのえらい人に「なかなかヒットが出なくても、バッターボックスに立ち続けることが大事」と言われました。

 厳しい業界です。私もご多分に漏れず、書けども書けども売り上げ的には凡打ばかりで、何度もキツい思いをしました。それでもなんとかめげずに書き続け、どうにかこうにか毎年本を出してこられたのは、読者の皆様のあたたかい言葉があったからです。たった1通のお手紙、たった1行のご感想に、いつも情けないくらい励まされています。本当に本当に、ありがとうございます。

 そもそも、バッターボックスに立てるというだけで、ものすごくラッキーなことです。一度や二度うまくいかなかったくらいで諦めるわけにはいかないのです。応援してくださるすべての方への感謝を胸に、どれだけ地獄を見ようとも何度でも蘇る誇り高きゾンビ作家としてやっていこうと思います。

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ゾンビと言えばトゥウィンキー。映画『ゾンビランド』を観よう!

 何が言いたかったんだっけ。
 とにかく、小説書くの、楽しいです。
 どうすればより面白くなるのか、どうすれば読者様にもっと喜んでいただけるのか、毎日毎日飽きもせず、物語のことばかり考えています。私は本当に幸せ者です。
 これからも焦らずゆっくり頑張りますので、どうぞ応援してください。

 

 お祝いに明日発売(!)の新刊を買ってくださるととっても喜びます!↓

eight-tenkawa.hatenablog.com

 

 過去作が気になった方はこちらの記事でまとめてあります↓

eight-tenkawa.hatenablog.com

 

 お仕事のご依頼などは、下記お問い合わせフォームまたはTwitterのDMまでお気軽にご連絡ください。

お問い合わせ - 青の名前

【2/26発売】『悪魔のパズル 絶体絶命⁉ ねらわれた球技大会』

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あらすじ

 モフモフの悪魔・マルコとともに、悪魔の鍵を集めることになった青葉。

 街にひそむ悪魔たちを探すため、「地域研究部」をつくったものの、なぜか生徒会長から「廃部にする!」と言われてしまい……。
 さらに、球技大会でも大ピンチ! 超のつく運動オンチの青葉、無事に悪魔のパズルをクリアできるのか?

 第9回集英社みらい文庫大賞【大賞】受賞作の第2弾!

 

『悪魔のパズル』シリーズの第2巻です。イラストは引き続き香琳先生。
 2巻はパズルもパワーアップ! どうぞよろしくお願いします! 

 

詳しく見る↓

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特集ページはこちら↓

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1巻紹介動画↓

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好きで運動音痴やってるわけじゃない

 突然ですが、私は運動ができません。びっくりするくらいできません。

 最初にそのことに気づいたのは、多分、小1のマラソン大会で最下位になったとき。いや、小学校入る前にスキップができなくて泣いたときかな? とにかく、他の子が当たり前にできることが全然できなかったのです。

 たとえば体力テストは毎年最下位争い。あまりの身体の固さに、長座体前屈のとき、先生にそっと背中を押されるという不正があったほど。握力がなさすぎて、評価シートに「まずはものを握ることから!」という限界アドバイスを書かれたこともあります。

 当然、体育の成績は最悪。球技や武道の授業では全戦全敗がデフォ、プールで25m泳ぎ切れたことは一度もないし、体育祭の玉入れは6年間で2個しか入りませんでした。バレーボールではサーブが入るだけで敵チームからも拍手が起き、卓球をすれば「殺す気か」と言われ、歩き方にすら先生からマンツーマンの指導が入る始末。

 他にも山登りで吐く、シュノーケリングで「もうフィンを外して浅瀬で歩いてなさい」と言われる、太陽の塔の方がまだ腕上がってる、などなど枚挙にいとまがないのですが、キリがないのでこのへんで。

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太陽の塔。まあまあ四十肩

 別にいいんですよ、死ぬわけじゃないし。こうやってブログのネタにもできるし。運動できないことはもはや、自分のアイデンティティだとすら思ってきました。

 でもね、こっちだって別に好きで運動音痴やってるわけじゃないんですよ。当然だけど。

 

 というのもこの前、某TV番組の「運動神経悪い芸人」を見てて(番組名を伏せた意味がない)、ある芸人さんが「憧れてた先輩芸人が『笑かす』んじゃなくて『笑われ』てるの見るの辛いっすよ」的なこと言ってらして、「あーっ」て、思っちゃった。

 私もいわゆる「運動神経悪い芸人」でした。自ら笑われにいくタイプだった。だってその方が楽だからです。

 何が嫌って、体育の授業は団体競技が多いこと。古文の点数が悪くても隣の席の子が困ることはないけど、バスケが下手だとチームメイトに迷惑かかるでしょ。ヘマをするたびにイラつかれたり、腫れ物に触るような扱いをされたりするくらいなら、「お前マジかよウケる」ってネタにされてた方が、いくらかマシです。

 つまり私の場合、「笑われる」ことは、生存戦略だったわけです。運動神経悪くて、チームのメンバーに迷惑かけがちな自分が、どうにか周りから反感を買わずに、体育の時間を乗り切るための。

 いやそりゃ恥ずかしいよ。しんどいよ。上手に走ったり跳んだりできない。みんなみたいに器用に体を動かせない。嫌ですよそんなの、そりゃ。自ら笑い話にしてないとやってられなかった。私だけじゃなくて、そうやってなんとか精神や体面を保つために「笑われてる」子、結構いるんじゃないかと思う。

 別にだからって誰かを糾弾するつもりはみじんもないのだけど、でもまあ「できないことを笑う」風潮は実際もう時代遅れだし、それが生存戦略だとしても、本人や見てる人が「辛いっすよ」ってなるならさ、それはもう、やめるべきだよね。

 

 体育の授業ってどうしても競技志向、それもチーム戦になりがち。スコアがオープンで、誰が足を引っ張ってるのか、目に見えて分かってしまう。それって、できない子にはちょっと辛い。

 特に体格やスタミナの差なんかは個人の努力ではどうにもならん部分があるし、どうにもならんことで周りから馬鹿にされたり、劣等感を抱いたりするのは理不尽だよね。うーん、笑われてる場合じゃなかった。

 でも別に運動を憎んでるわけじゃないですよ。むしろ、大人になってみると、ウォーキングとかヨガとか、嫌いじゃないなって思える運動もあった。つまり誰とも競わず、誰にも迷惑かけず、上達や達成を目指さないスローペースな運動なら、それなりに楽しく取り組めるってことが分かったんです。自分、ヨガの木のポーズだけはなぜか得意だってことも分かった。

 オリンピック選手でもないんだから、人と比べて上手じゃなくても無問題。ちゃんと自分自身の身体に向き合って、自分にできる範囲で気持ちよく身体を動かせれば、それで十分なんじゃないのかな。考えてみれば当然なんだけど、もっと早く教えてほしかったな、そういうこと。

 

 なんてことをつらつら考えて、いろいろ調べて、で、いったん全部忘れて*1書いた本が2/26に出ます。

miraibunko.jp 

 紹介ページのあらすじだとちょっとわかりにくいんですが、作品後半は球技大会が舞台です。「球技大会ですか……」と編集さんにはヤヤウケだったのですが、超のつく運動音痴の青葉が、汗かいて走り回る話を書きたかったのです。

 1巻同様パズルも入って、とても楽しい本になりましたので、ぜひぜひ、読んでくださいませ!

 

  予約始まっています↓

books.shueisha.co.jp

 1巻はこちら↓ 

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*1:作家にとって一番大事な作業は、「膨大に調べて膨大に捨てる」ということだと思うんですよ。」(有川浩

【既刊紹介】『悪魔のパズル』

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【あらすじ】

「悪魔が相棒なんてお断りだ!」

本好きの内気な少年・森青葉は、自宅の書斎でたくさんの鍵が入った古いカバンをみつける。その鍵には悪魔たちが封じられていたが、封印がとけ、街中に散らばってしまった! 
青葉はイヤイヤながらも、子犬の姿をした悪魔「マルコシアス」とともに悪魔を回収することになるけれど……!? 

【よもやま】

 第9回集英社みらい文庫大賞・大賞受賞作品。かねてから児童向けの小説を書きたい! と思っていたので、念願叶ってハッピーです。

 男の子主人公は初めてでしたが、とても楽しく書けました。アナログの魅力あふれる香琳先生のイラストも、最高に素敵です。

 パズルや地図や間違い探しが入ったり、ラストにどんでん返しがあったり。とにかく楽しい本になるよう、編集さんや香琳さんと手を取り合って作りました。紹介動画を作っていただけたのも嬉しかった! ほんとに楽しい思い出しかないんじゃ〜。

youtu.be

 男の子も女の子もどっちでもない子も、もちろん大人の読者の方にも! たくさんの人に読んでいただきたいです。まだまだよろしくお願いします。

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手芸が得意な母がマルコ人形を作ってくれました。

【試し読み・ご購入はこちらから】

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