青の名前

青の名前

天川栄人のブログです。新刊お知らせや雑記など。

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青の名前

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 その昔この世界を創った『彼』は、あるとき悲しみのため息からひょいと飛び出した青という色に、実際魅了されてしまった。
 青は気まぐれだった。『彼』を抱きしめては宥め励まし、かと思えば急にきびすを返して『彼』を絶望の淵に突き落とした。舌の上でざらつくような甘い笑みをたたえながら、肌を刺す棘のドレスばかり好んで身に纏った。怒鳴り散らして泣きわめいて好き勝手エネルギーをぶちまけたあと、不意にストンと落ち着いて「お腹すいた」なんて呟くのだから、『彼』はもう参ってしまった。
 青に振り回されることに疲れた『彼』は、自分自身青に飲み込まれてしまわないうちに、青を分離することにした。青を小瓶に閉じ込めておいて、その小瓶を三日三晩振り続けたのだ。そうして出来た半透明の上澄みを天に、底にどろんと沈んだほうを地に、それぞれ丁寧に貼りつけ、再び混じり合わないように、間にチョークで線を引いた。
 けれど『彼』はそれでも、どうしようもなく青を愛していたから、二つに分かたれた青のそれぞれを、手に掴めない形にしておいた。掴もうとしてもすり抜けるように、どの形にも囚われないように。この気まぐれでわがままな青を、他の誰にも奪われないように。

 人はそれを、空と海と呼んだ。

 世界で一番大きな青と青は、だから今でもその手を繋げずに、互いに見つめ合っては相手の影を映しとっている。

 

noteからお引っ越ししました。

 以前と変わらず、書きたいときに書きたいことを書く、ゆるい感じの運用でいきたいなーと思っています。noteの記事は移すかもしれんし移さないかも。

 引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。